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それから数分歩いてヴァルの目的地に到着。この町はデカイ割にちょっと暗いというかおとなしいというか、うるさいのだが活気がないのでちょっと不安な気持ちにさせられる。機械が動く音とか鉄を打つ甲高い音は響いているが、人通りが少ないので雑踏や会話がほとんどない。当然、目的地周辺にも人はいない。
ドアを開けて店に入ると、カウンターのところに強面のおっさんが座っていた。スキンヘッドで髭面でガタイが良くて長身。海外ドラマのアクション映画総なめしそうなおっさんだ。
「こんちわー、ひさしぶりー」
なんて言いながらヴァルがズカズカと店の中に入っていく。おっさんがこっちを見て、びくっと肩を震わせた。
「な、なんでアンタがここに……!」
顔が青くなっていく。小動物のようにガタガタ震えてるじゃないか。
「お前なにしたの?」
「大したことじゃない」
「なわけないだろ。めちゃくちゃ怯えてるじゃねーか」
「ホントに大したことしたわけじゃないんだって。何回か店を吹き飛ばしたことがある程度なもんで」
「最悪じゃねーか」
「ちなみにここは代々受け継がれる鍛冶屋でね、三百年くらい前から世話になってるのよ」
「三百年も前から店壊し続けてんのかよ……」
「正確にはこの店を壊したいわけじゃないんだけどね。運悪く破壊したい物の近くにこの店があっただけ」
「素晴らしく迷惑じゃん」
「ちゃんと補填してきたって。この店だけじゃなくて壊した店全部」
「他にも破壊してきたんか……」
破壊衝動でもあるんか。
怯えるおっさんを気にせずカウンターに向かったヴァル。一歩、また一歩と近づくたびにおっさんがビクッと体が震えるのが面白い。
「な、なななななんんんんの用事でしょうか」
「武器を買いに来たに決まってるでしょ」
「じゃあまた店を壊しに来たんじゃないんですね?」
「だから、この店を壊したかったわけじゃないってば」
「わかりました……!」
おっさん、苦虫を口いっぱいに頬張ったような顔してるな。本当に来てほしくなかったんだな。
「私用の武器と彼用の武器をお願いしたいの」
「ご希望のものはございますか?」
「そうね、私には鞭をお願い。彼には剣を。魔法を付与する関係で専用のものを見せてくれる?」
「はい、少々お待ち下さい」
おっさんはそう言って奥に入っていった。厳つい大男から繰り出される腰が低い態度はとんでもないインパクトがあるな。
すぐにおっさんが戻ってきた。木箱を乗せた台車をガラガラと押して俺たちの前で止まった。
「うちにある武器だとこんなところですね」
鞭が三本、剣が五本だ。全体的に地味めだが実用性重視だとこんなところか。
「俺は裏にいますんで、またなにかあったら声かけてください」
「わかったわ、ありがとう」
ヴァルがしゃがみこんで武器をあさり始めた。
「俺じゃ良し悪しはわからないから選んでくれ」
「もとからそのつもりだけど?」
「そっすね」
もうこの件に関してはなにも言わん。
「お前が本当に壊したかった物ってなんだったんだ?」
「あー、それ訊いちゃう?」
「訊きたくなるでしょ」
「大したことないわよ。この辺は結構良くない人たちが集まっていたのよ、昔から」
「三百年前から?」
「この店が三百年ここにあるように、ソイツらも三百年この辺にはびこってるってわけよ」
「でもソイツらをぶっ倒すために周囲を吹き飛ばす必要があるのか疑問である」
「ちゃんと守るべき人は守ってたわよ」
「しかし建物は吹き飛ばす」
「仕方なかったのよ。あの店はたまり場になったりだとか、人質に取られたりすることもあったから」
「じゃあこの店の人にそれを言えばよかったじゃねーか」
「私は魔女よ。恐れられてなんぼの存在だわ」
「よくわからないプライド捨てた方が絶対いい人生送れると思うんだけどな」
「一般人に崇められても嬉しくもなんともないのよ。すごく力を持った者が善行を働くこと、それがどんな意味を持っているのか。それがわからないほど私は馬鹿じゃないってことよ」
「そりゃどういう意味だ」
「大人になればわかるわよ」
「なに言ってんだ、俺はもう――」
ガツンとコメカミが殴られるような衝撃があった。
気がつくとヴァルの顔を見上げていた。仰向けに倒れているのだと理解するのに時間がかかった。
ズキンズキンと、コメカミが強く痛んだ。
「また頭痛?」
「そう、らしい」
どうしてこのタイミングなのかはわからない。わからないけど、気絶することはなさそうだ。




