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 俺は部屋を出てある場所を目指した。当然幼女カフェではない。が、あとで行こうとは思っている。


 やってきたのはロウエンの家だ。ガーネットが言うように、このまま王都を離れてなにかあってはやっぱり困る。


「しかしなあ、なんて説明したらいいもんか」


 キスして契約しましたとは言いづらいんだよな。


 そんな時に限ってドアが開く。家の中からはロウエンとケインが仲良く手を繋いで外に出てきた。これからお出かけって感じなので邪魔をしたくはないのだが、目と目が合ってしまうと「お気になさらず」とはいかないだろう。


 ロウエンはどこか気まずそうな顔をしているが、おそらく相手から見れば俺も気まずそうな顔をしてるに違いない。


「ケイン、悪いんだけどお出かけはもうちょっと待ってくれるか?」


 ケインは「わかった」と小さく頷いて家の中に入っていった。なんだか申し訳ない気持ちになってくるな。


 二人になった直後、いきなり深々と頭を下げてきた。


「ちゃんと礼をしなければと思っていました。本当にありがとう」


 唐突すぎたのでどう返していいのかわからない。


「ありがとうって、なにが?」


 って言うしかない。


「キミがボクを助けてくれたんですよね」


 はいイケメンスマイルは卑怯だよね。男だろうが女だろうが造形として美しい物はキラキラして見えるもんなんだよ。


 そうじゃない。フラッシュもとい閃光弾を使ったはずなのになんでコイツが「俺がロウエンを助けた」って知ってるんだ。


「なんでお前が知ってんだよ。ちゃんとフラッシュつかったろ」

「そういうときのため、団員の数名は常にゴーグルを着用しているんですよ。その数名が全員同じことを言っていました」


 顔を赤らめるんじゃない。俺も恥ずかしくなってくるじゃないか。


「あー、じゃあ俺がやったことは知ってるのか。いや、ちゃんと弁明させて欲しいんだが、ああしないとお前はあのまま死ぬところだったんだ」

「わかってるさ。でなければあんなことはしなかっただろうしね」


 だから頬を染めて俯くなって。


「でもそんな力を持っているなら神官にでもなった方がいいんじゃないかな? きっとキミのような人材を待ってるはずだ」

「教会が?」

「当然」

「でも困ったやつ全員にキスするわけにもいかないんだけどな」

「なにか代償でも?」


 ここからが本題になるが、ある程度言葉を選ぶ必要がありそうだな。


「勘違いしているようだが、俺はキスすることで治癒する能力なんて持ってないんだよ。回復とか治癒は副作用みたいなもんだ」

「では本来の能力は?」

「相手を奴隷にする力だ」


 我ながら思うが言葉を選ぶのって難しいな。


「奴隷って、あの奴隷?」

「正確には主従の契約を強制的に結ばせるっていう呪術だ。勘違いしないでほしいんだけど俺が作った魔法じゃないんだ。とある魔女が酒の勢いで作って俺にかけた。そのせいでその魔女も俺の奴隷みたいなものになったわけだけど」

「じゃあボクはキミの奴隷ということか。しかも魔法によって縛り付けられた強固な契約」

「そういうことだ。俺と一緒にいたヤツらは全員俺の奴隷だ」


 ロウエンが右手で口を押さえた。そりゃそうだ、普通に考えたらとんでもない発言だからな。体型や年齢に関係なく何人もの女をつれて「俺の奴隷だから」なんて言ったらヤバイヤツだからな。


 そのヤバイヤツが俺なんだけど。


「本当なら声もかけずに出ていくところだったんだが、契約したヤツを置いていったことがないんだ。だから俺とお前の距離が離れて、お前がどうなるのかわからなかった。一定の距離が離れたら死ぬとか、そういうことがあるかどうかもわからないからな。一応話くらいはしておかなきゃなと思ったんだ」

「ちなみに呪いを解く方法は?」

「めちゃくちゃたくさん魔力を使うが、逆に魔力さえあれば無理矢理なんとかできるとかなんとか。俺たちはそのためにラングラン古城に向かってる最中だ」

「じゃあ治すつもりはあるんだね」

「別に俺は奴隷が欲しいわけじゃない。気づいたら奴隷がいたんだ」


 なにを言われてるかわからないかも知れんがこれが真実だ。ロウエンもちょっと首をかしげている。俺も首をかしげてしまいたくなる。俺は普通に生きていかれればそれでいいのに、と。


「じゃあ、ボクも一緒に行こうかな」


 いきなりそんなことを言い出した。


「待て待て、ケインはどうするんだよ」

「大丈夫さ、ボクにだって親族はいる」

「それで大丈夫なのか? ケインが寂しがるんじゃないか? それにラングラン古城で解呪できるか確証もないし」

「それでも可能性があればやってみるものだよ。問題ないさ、ボクのことは気にしないで」


 そう言いながら笑っていた。

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