11
次の瞬間、ぐんぐんと俺の体が大きくなっていく。浮遊感に襲われて若干吐きそうになった。胃の奥からこみ上げてくるというのような感じではない。気持ち悪いわけではなく、おそらくこの膨張感に体が耐えきれていないだけだろう。
そうやって我慢しているうちにスライム巨人と同じくらいの大きさになった。
「うし、予想通りだな」
ちょっと泣きそうだが、キャロルの紋章を使うことで巨大化することがわかった。まあそうなんだろうなって気がしてたから使わなかったわけだが。
「グオオオオオオオオオオオオオ!」
スライムが大口を開けて叫んだ。やる気満々って感じだな。
「かかってこいやああああああああああ!」
俺が両腕を広げるとスライム巨人が襲いかかってきた。
スライム巨人の拳が俺の顔面を直撃した。
べちゃっ。
「ひいっ!」
拳であることは間違いないのだが、いかんせんスライムのせいか物理ダメージがなく、その代わりに精神ダメージがかなり大きい。
「グオッグオオオオオオオオ!」
ベチャッ、ピチャッ。
幾度となく巨人の拳が俺の顔面に当たる。たまーにボディも殴られるが痛くない。ひんやり冷たいならまだわかるのだが生暖かいせいで不快感がすごい。
俺も殴り返しはするのだが、これまたスライムのせいでダメージがあまりないように見える。つまり今の状況はかなり泥沼であった。傍から見ればじゃれ合っているように見えてもおかしくない。スライム弱い打撃で男が気持ち悪がって、男が攻撃するたびにスライムがぷるんと揺れる。酷い巨人対戦だ。
「早く終わらせなければ」
長引けば長引くほどに俺が恥を晒すことになる。いや、その前に力尽きるかもしれない。紋章の力は一過性のもので時間制限がある。これだけ巨大になったのだから、ヴァルやノアの紋章よりも持続時間が短い可能性がある。
「一気に決めるぞ」
ここで戦っていても埒が明かない。王都の住人を気にしながら戦わねばならないのは面倒くさい。
腰を落としてスライム巨人に突っ込む。太もも(?)を両脇に抱えて持ち上げると、そのまま王都を飛び出した。
近くの平原に着地してからスライム巨人を離した。
「ここなら気兼ねなくやれるよな」
と言ってもやるなら一瞬で終わらせなきゃならない。
スライムとは元来心臓部分である核を持っている、はずである。その核さえ破壊してしまえば倒せると思われる。
スライム巨人の体内には頭、胴体、股間の三つの場所になにかの球体が浮かんでいる。あれが核なんだろうがあまりにも露骨過ぎて逆に怖い。
ちなみに核があるのをわかっていながら何故攻撃しなかったかというと、核を破壊したせいで飛び散ったりなんかしたら困るからだ。
スライム巨人の懐に飛び込んで体内に手を差し込む。スライム巨人の体がビクンと跳ねた。
「まずは股間だ!」
股間の核を掴んで引き寄せる。核を体内から引き出そうとするがなかなか上手くいかない。本当なら格好良く握りつぶせればいいのだが、俺の握力が弱いのか核が硬いのか不明だが握りつぶせない。だから外に出して踏み潰すしかない。
粘着質の液体がついたまま核を引っ張り出す。地面に叩きつけ、その勢いで核を踏みつけた。パリーンと核が割れる。同時にスライム巨人が股間を両手で掴んで膝から崩れ落ちた。
「そういう感じなの?」
なんて言いながら今度は頭の核を引っ張り出す。スライム巨人もそれを嫌がって、そうはさせまいと抵抗する。だがそうはいかん。
頭の核を取り出して地面に叩きつける。
「二つ目だ!」
核を踏みつけると、今度は頭を抱えてしまった。表情がわからないのでどういう感情なのかはさっぱりわからない。
「まあどうでもいいか」
敵だからな。
そして最後の核を取り出して踏みつけると、スライムは形を失ってただの水のようになってしまった。
「この草原、しばらくは誰も近寄らないんだろうな……」
ベッタベタだからな。
巨人対戦が終わってしばらくすると巨大化が解けて元の姿に戻った。このスライム草原の中で、だ。
「くそがっ」
もちろん全身ベチャベチャである。
ノアの紋章を使い、全身スライムまみれになりながらも草原を抜け出した。こうでもしなきゃ何時間かかるかわかったもんじゃない。
王都に到着してからすぐにガーネットを見つけた。むしろ俺を待っていたかと思うほど的確に俺を見つけ出してくれた。ガーネットに右にはキャロル、その右には男の子。あれがケインか。
「大丈夫だったか?」
「うん、大丈夫」
キャロルが笑顔でそう言った。ケインは怯えていたが、こっちの方も問題なさそうだ。
「私の心配は?」
「お前は必要ないだろ」
一人でたくましく生きていかれるだろうしな。
「とりあえず落ち着いたみたいだな。一度ヴァルの様子のところに行くか」
「そういえば姿が見えないけどなにかあった?」
まだ説明していないことを思い出してあれやこれや、ガーネットとキャロルに説明した。説明している最中にロウエンのことを思い出したがまあそれはいいだろう。




