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今はただ、自分ができることをするしかない。
「コイツらは俺たちがなんとかするからアンタたちは住民の避難を優先させてくれ。聖騎士総動員すりゃ時間もかからんだろ」
「なんとかするって、聖騎士である我々でも苦戦する相手なんだぞ?」
「心配すんな、さっきの戦いぶりを見る限りでもおそらく俺たちの方がやれる。強いかどうかはわからんが」
「さっきから「俺たち」って言ってるけど、オレにはキミが一人にしか見えないんだが……」
「まあそうだな。「今は」一人だがそのうち来るぞ」
「そのうちじゃ困るんだけど」
そんな話をしているうちに敵がワラワラと接近してくる。これがアイヴィーたちの仕業だとして、こんな大掛かりなことをしてまでヴァルを失墜させたいのだろうか。だとしたらあの女は本気でどうかしてる。そしていまだに名前もわからないあの男も間違いなくどうかしてる。
「とにかくさっさと行け。戦うことがお前らの役目じゃない。住民を守るのがお前らの仕事だろうがよ。せっかく聖騎士になったんならその責務をちゃんと果たせよ」
正気を失った連中をぶん殴って周囲の奴もふっとばした。一人ひとり相手にしてたらキリがない。
「そんなこと、言われなくてもわかってるさ」
だがそれでも心配らしい。
そんなとき、周囲の敵を銀色の光が貫いた。俺や聖騎士たちの目の前で何人も何人も、バタバタと敵が倒れていく。
「な、なんだ……?」
「これが「俺たち」だよ」
顎で「早くいけ」と指示を出してやれば、聖騎士たちは渋々といった感じで街の中へと駆けていった。
「あの鎧、絶対脱いだ方がいいよな」
大規模な戦争ならまだしも、王都なんて狭い場所で戦うなら身軽な方がいいと思うんだが。
「おいエージ」
右を見れば銃をテキトーにぶっ放しながらガーネットが近づいてくる。
「物騒かよ」
「大丈夫だ、死にはしない」
「暗殺者が言うこと簡単に信じると思う?」
「信じないのか?」
「いやまあ信じるけど。一応仲間だし」
「コイツは魔力を弾丸にして打ち出してるだけで実弾はない。魔力強度も下げてあるから大きな衝撃はあるだろうが、弾丸のように体を貫いたりはしないから問題ないさ。なんなら自分でも食らってみるか?」
ニヤッと笑いながら銃口をこっちに向けた。
「危ないからやめい」
「残念」
なんて言いながら周囲の敵をガンガン駆逐していく。やはり俺の仲間は頼りになる奴が多いな。現在一人使い物にならないが。
「ここのヤツらぶっ倒して早く別のとこ行くぞ」
「キャロルは?」
「まだ見つかってない。だからこんなこと早く終わらせたいんだって。今どこでキャロルが泣いてるかわからないしな」
「あの子はそう簡単に泣かないと思うけどな」
「俺も言ったあとでそう思ったわ。なんかの拍子に巨大化しなきゃいいな、とは思ってるけど」
「確かに、ね」
「いやごめん、今言ったこと取り消すわ」
フラグみたいになったら困るんだけど。
ドカーンと、一際大きな音がした。中央では高く高く土煙が上がっていた。やはりフラグか、とも思ったがそうではないようだ。
「なんじゃありゃ……」
巨大なスライム的ななにかだった。スライムと断定できないのはその形状にある。一応頑張って人型になってみました、みたいな感じだからだ。緑色で透明なところはスライムと変わらないが頭が会あって胴体があって足が生えている。まさかこんな展開を誰が予想しただろうか。
おそらく今回はあれを倒せば、あとはなんとかなるかもしれないな。今までの経験からするとなんとかなる。
問題はどうやってあれを倒すかだ。ヴァルはしばらく動けないだろうし、ノアやガーネットはあんなデカイのを相手にするほどの戦闘力はない。ヴァルの紋章を使えばなんとか戦えるかもしれないが、紋章の力は奴隷側に負担があるみたいなので、体調が良くないやつの紋章はあまり使いたくない。
と、なれば解決方法は一つしかないのだが、その解決策になりえる人物がここにはいない。
「どうするんだエージ」
「俺に訊かれても困るんだが」
俺だって考えてる最中だ。
いや、一つだけ方法があることは自分でもよくわかっている。
「なにかあるんでしょ? だったら早く実行しないと王都が更地になっちゃうよ」
「うるせーな。ある程度の覚悟ってのが必要なんだよ」
「覚悟?」
「これだけはやりたくなかったんだよホントに……」
渋々左肩に手を当てる。
「お前これから街中駆け回って光ってるやつ探して来い」
「光ってるやつってなに」
「俺が紋章使うと、紋章持ってるやつの紋章が光るの。わかった?」
「まあ、なんとなく」
「んじゃよろしくな」
そう言ったあとで魔力を込めた。




