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 結局ある程度人が引くまでは上手く身動きが取れなかった。隙間が空いて初めて目当ての路地へと移動する。


「いないわね」

「そりゃあれだけ時間がかかればな」


 時計を見てたわけじゃないが、人の波が引くまで最低十分くらいはかかってたと思う。普通に歩いてれば追いつけないくらいの時間だ。


「しかもこの路地、なんかちょっと暗くない?」


 ノアが顔をしかめる。両側の建物の背が高く、路地そのものが細いので陽の光が当たらない。それに人通りも少ないせいか非常に陰鬱とした雰囲気があるではないか。


「おいおい、面倒なことになってるんじゃないだろうな」

「それなら早く行かないと」


 一番に走り出したのはノアだった。まあ俺たちの中では一番キャロルと仲がよかったし、なにかあれば世話を焼いていた。妹みたいな感覚だったのかもしれない。


 ってそうじゃない。俺も早く追いかけないきゃノアも見失いかねない。


「おい俺たちも行くぞ」

「わかってるわよ」


 不安になりながらも薄暗い路地を掛けていく。


 と、急にノアがなにかにふっ飛ばされた。横から誰かが飛び出してきたらしく、思い切りぶつかったみたいだ。


 速度を上げて駆け寄るが、もうすでに誰かがノアを抱き上げていた。金髪で長身でそこそこガタイがいい。高そうな白いシャツにタイトなズボン。シンプルな格好だが非常に格好いい。これが似合うということは、まあ、そういうことだ。ここからじゃ背中側しか見えないが俺の勘が「あれはお前の敵だ」と告げている。現にヴァルがワクワクし始めている。絶対に、間違いなく、100%俺の敵だ。


「大丈夫ですか、お嬢さん」


 俺初めて見たよ。転んだ女の子の上半身だけ抱き上げるやつをリアルでやる奴。キザったらしくてイライラする。


「だ、大丈夫、です」


 ノアもなんだかまんざらでもない顔してるじゃないか。許さん。


「大丈夫だっつってんだろさっさと手離せゴラ!」


 肩を掴んで引き寄せると金髪の男と目があった。


「すいませんでした!」


 思わず謝ってしまった。


 めちゃくちゃイケメンだった。キラキラと周囲に星が飛び交っている。そういう魔法でも使えんのか。


 くそ、コイツの顔を見ていると顔が熱くなってくる。これが持てる者ってことか。さぞかしモテることだろう。そう、男にも、女にも。


 いや待て。めちゃくちゃイケメンなのは認めよう。しかしこの顔、どこかで見たことがあるような気がする。


「ロウエン、ソロウ……!」


 と、ヴァルがわなわなと震えていた。


「なんだよ、誰だよロウエンって」


 ヴァルが震え上がるくらいヤバいやつってことか?


「アンタさっきまでなに見てたわけ?! ロウエン=ソロウよ! 美男聖騎士集団【イケメンヘブン】のリーダーにして団長のロウエンよ!」

「あー、あの一番前で歌って踊ってたやつか」

「一番前じゃない、センターって言いなさい」

「なんでアイドルって文化がなくてセンターって言い回しがあるんだよ」

「とにかくロウエンはイケヘブの中で最強の聖騎士なのよ。顔よし頭よし高身長高給取り不動のセンターなんだから」

「まあ完璧超人なのはよーくわかったよ」


 騎士団長で歌も上手くて踊れて頭もいいって、コイツだけ時空間がネジ曲がってんだろ。そのほんの一部くらい俺に分けてくれたっていいと思う。


「でも鎧じゃないぞ。さっきまで鎧着て踊ってなかったか?」

「ああ、あれは鎧じゃないんだよ。プラスチックでできてるんだ。それに魔法をかけてあるから空気抵抗も少ない」


 ロウエンが爽やかな笑顔で鎧の説明をしてくれた。


「おいおいおい! とにかくノアから離れてから言うんだな!」


 ノアとロウエンを物理的に引き離した。これ以上触れさせていたら間違いなくノアの高感度が振り切れてしまう。


「大丈夫かノア!」


 あ、ちょっと残念そうな顔してる。俺がイケメンじゃないから……。


 ここで凹んでたらさらに格好わるいな。


「と、とにかくその騎士団長様がなんでこんなところにいるんだよ」


 髪をかきあげながら立ち上がるロウエン。コイツがやるとなんでも様になるな。本当にムカつく。


「ライブを見に来た弟がどこかに行ってしまったのさ」


 キランという効果音と共に微笑んだ。なんなのこの効果音。


「ライブ」


 アイドルという文化はないのに……。


「部下に訊いたらこっちに行ったのを見たっていうから来たんだけどね」

「いなかったと」


 下から睨めつけるが本当に背高いな。


「あの、そんなふうに見られると喋りづらいんだけど……」

「気にすんなよ。俺の背がお前の背より低いだけだから」

「ひがんでんじゃねーぞ」


 パシンとヴァルに後頭部を平手打ちされた。

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