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 と、どこからか視線を感じて顔を上げた。ノア以外の全員が俺のことを見ている。


「んだよ」

「いやあ、アンタは一生イケメンにはなれないよ」


 ヴァルに肩を叩かれたのだが無性に腹がたった。でもガーネットとキャロルにも同じことをされるとさすがに認めるしかなさそうである。


「もういいよイケメンになんてならなくて……」

「なる、ならないっていう話じゃないんだけどね。そもそもの生まれが問題なわけだし」

「わかっとるわ」


 イジるネタ見つけてボコボコにしようって腹だろう。


「とにかく俺は物販には興味ないし宿に帰って命の水でも飲んで寝るぞ」

「昼間から命の水か? いいご身分だな」

「うるさいよ。気持ちよくなって不貞寝するくらいいいだろうが。お前も付き合え」

「ヤダよ。せっかく王都まで来たんだ。私は武器屋を見て回るさ。これでも本業は暗殺者だからね。夕食時までには帰るよ」


「ふふっ」と爽やかに微笑んで人混みの中に消えていった。こうやって静かに消えていくところはさすがだなと思う。


「ヴァルはいいのか、物販」

「もう買ってきたけど」

「会話の合間に? そのスキル違うことに使ったら?」

「王都でしか買えないものは素早く入手しないと」

「まあ買いたいもの買えたなら別にいいか。さて帰るぞ」


 と周囲を見渡すとなにかが足りない気がする。


「キャロルは?」


 全員で前後左右と視線を向けるがキャロルの姿はどこにもない。この中央広場は非常に大きく、なによりも人が多すぎて、ガーネットのような特殊はスキルでもない限りは自由に動き回ることなんてできやしない。できるとすればキャロルのように細くて小さな女の子、ということになる。


「近くの警察官にでも訊いてみるか?」

「そっちは私の方でやっとく。二時間後に宿の前で落ち合いましょう」


 それだけ言ってノアが人混みの中へと消えていった。まあノアも細いし身のこなしもしなやかだから心配することはないだろう。


「で、お前はどんな方法で探すの?」

「私? 普通に歩くわよ。それしかないもの」

「なんのための魔女なんだよ。パパーっとなんか魔法使えよ」

「そうね、血溜まりにでもなれば探しやすいわね」

「返しがバイオレンス過ぎて引くわ」

「よーし」

「やらんでよろしい。といってもお前じゃアイツらみたいに人混みをかき分けて進むなんてこともできないだろうしな」


 あの乳じゃ、なあ。


「できるわよ。さっきだって生写真買って来たんだもの」

「確かに? どうやったんだ」

「じゃあとりあえず端っこの方いきましょうか」


 そしてヴァルが歩き出した。


 ドン、ドン。


 バシン、バシン。


 そんな音を立てながら進んでいく。


「いや物理」


 避けようとか思わんのかなコイツ。でも不思議と当たり負けしないで進んでいくのだが、おそらくコイツは身体強化を最大限まで使ってるんだと思われる。やり方が汚い。


 広場を強引に突き進んで外側までやってきた。中央に人が寄っているので、外側に来てようやく一息つけるって感じだ。


「うし、探すか」

「探すって言ってもねえ。この中を探すのは無謀も無謀じゃない」

「仕方ないだろ。クソ役にもたたねえ魔女がいるんだからよ」

「ふんっ」


 ガツンと脇腹を小突かれた。


「魔法が効かないからって……」


 屈むほどではないがそれなりに痛い。当たり前だが。


 と、その時目端になにかが映り込んだ。ふわっとした髪の毛、低めの身長、一瞬の後ろ姿であったがおそらくキャロルだろう。その後姿は左前方の路地へと姿を消した。キャロルよりも身長が低い子供と手を繋いでいたので別人の可能性は十分にある。


「どこ見てんの? 女のケツ?」

「ちげーわ。あそこの路地にキャロルっぽい女の子と知らない子供が入っていったんだ。いや、入ってった気がしたんだ」

「知らない子供と一緒って時点で見間違いじゃない?」

「あの子めちゃくちゃいい子だから迷子とか見つけたら率先して親を見つけるとかしそうじゃない?」

「あーあるある」


 手を叩いて笑っているがそれどころではない。


「とりあえず追いかけてみるか」


 そうして歩き出そうとした瞬間だった。


「これで物販は終了でーす! ありがとうございましたー!」


 なんて大きな声がして、広場の中で大きなうねりが動き出す。本来であれば物販のために意思をもっていた一つの塊だったのだが、それが終わったとなれば一つの塊は個人へと戻っていく。つまりこの広場にもう用事はないのだ。


 あれよあれよと言う間にイベントから帰ろうとする人たちの波にさらわれてしまった。帰宅する人たちは基本的に女性であるので、もみくちゃにされるのは割と嬉しい、かと思いきや肘が飛んできたり肩でぶっ飛ばされたり、しゃがんだら膝を顔面にもらうなどの災難に見舞われた。このイベント絶対危ないって。

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