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というか騎士団全員がイケメンだ。顔でしか選んでないのかって思うほどにレベルが高い。
ガラス越しだが、戦闘の金髪イケメンと目があった。ニコリと微笑まれたのだが、もしやアイツは俺に気があるのでは?
んなわけないか。
男は女の子たちに名前を呼ばれて手を上げた。あまりにも大きな黄色い悲鳴があがり、それは街中に響き渡ってもおかしくないくらいだった。
「ここの騎士団はアイドルグループかなんかかよ」
「アイドルがなにかは知らないけど、なんとなく言いたいことはわかる」
ノアは呆れたように言い、ガーネットがそれに頷いた。この二人はあんまり顔面とか興味なさそうだもんな。キャロルもケーキとかに夢中だが、おそらく年齡のせいだろうと思う。これから大人になっていく家庭で汚れなければいいが……。
「でもヴァルはこれを知ってたみたいな口ぶりだったな」
「やっぱり、って言ってたわね」
「まあヴァルは顔面さえよければいいみたいなところあるからな」
頭にチョップされた。
「実際そうだろうがよ」
「別にそういうわけではない。が、顔がいいに越したことはないでしょ? アンタだってブサイクよりも可愛い方がいいはずよ」
「馬鹿だな、人間は顔じゃないんだぜ」
「思い切りひっぱたくぞ」
「そりゃ顔がいいに越したことはない。当たり前だ」
「ほらみなさい。だから私がどうとかってことはないのよ。顔は、いいに、限る」
「その圧の強さが引っかかるんだってば」
たぶんコイツ自身はわかってないんだろうな。
「それはいいとして、お前はあのイケメン騎士団のこと知ってたんだろ?」
「そりゃね、観光名物としても有名だし」
「騎士団が名物ってやばくない? なんというか、倫理的にさ」
「倫理もクソもないのよ。あの超イケメン騎士団のおかげで王都に人が集まる。人が集まれば金が巡る。王都が潤う。そういうことよ」
「つまりあれは見世物ってことか」
「ただの見世物じゃないわよ。あの騎士団は一人ひとりが精鋭なの。見た目が良くてめちゃくちゃ強い。体つきはがっしりしていておまけに歌も上手い」
「最後のいる……?」
「集客のためには必要よ。ほらほら始まるわ、見に行きましょう」
ヴァルがカフェを飛び出していってしまったので、金を払ってから全員で移動することにした。なんで俺の財布から出さなきゃいけないんだよ。まあ言わずもがな元々ヴァルの金だけども。
女子の群れをかき分けて町の中を進んで行く。町の中心部へと近づいているんだろうか、数百メートル歩いたあたりでヴァルが止まった。
「あれが王都の名物【イケメンヘブン】よ」
「名前がやべーって」
ヴァルが指差した先には高く大きなステージがあった。
『みんな! 今日は来てくれてありがとう!』
とんでもないデカイ声援が上がる。あちらこちらから騎士の名前が叫ばれているが、マジでこの騎士団はアイドルみたいなことをしているらしいな。
『聴いてください! 新曲! キミの瞳は宝石箱』
「曲名がダセえ」
なんやかんやで歌が始まってしまった。しかも鎧着たまま踊りだしたぞ。
が、めちゃくちゃキレッキレだし歌も上手い。しかも顔がいい。
「クソがよお」
「なんで急にヤサグレてるの?」
ノアが脇を小突いてくる。
「知らないんか? イケメンってのは、イケメン以外にとって一生最強の敵として君臨し続けるんだぞ。一生勝てないんだぞ? 辛くない?」
「イケメンじゃないのがそんなにイヤ?」
「イケメンじゃなくてもいいけどイケメンが存在してるのがイヤ」
「絶対に権力わたしちゃいけないやつ」
「権力持ったらまずイケメンを駆逐するね。この世から」
「スケール」
そんなやり取りをしていると人が流れ始めた。流れの方向が決まっているということはこれからもなにかあるのかもしれない。
「吸い込まれるんだけどこのまま進んでもいいのか?」
「物販だけどなんか買うの? ちなみに私は最年少イケメンナイトのビリーの生写真が欲しいわ」
「黙ってろババア」
とにかくこの人混みがもうダメだ。暑いし疲れてしまう。なによりも「きっと俺には目もくれないであろう面食い女子」の群れが辛すぎる。
ヴァルの腕を掴んでため息を吐きながら女子たちの群れから抜け出した。キャロルも食べ物とか観光の方がいいだろうし、このまま王都をぐるっと回ってどこかで食事をするのもいいかもしれない。
「でも私は――」
隣のノアが言った。
「エージの顔、嫌いじゃないよ」
なんて言いながら僅かに微笑んだ。
「恥ずかしい……」
顔が熱くなってきてしまう。手で顔を覆うと、背中をバシバシと叩かれた。コイツは本当にイケメンだな。見習っていきたい。




