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 そんなこんなで馬車は王都クローディアに着いた。


 馬車から降りて、とりあえず宿屋を探すことになった。次の目的地であるクエラまでは非常に長い旅になる。ここで準備を整え、脚力のある馬を探さなきゃならない。クエラそのものは大きな町ではないが、クロラ、ガムラスカと渡り歩いてアラトラ国境都市を抜けてラングラン古城、というのがヴァルが考えたルートみたいだった。


「おいおい、どんだけ時間稼ぎすりゃ気が済むんだよ」

「時間稼ぎっていうな」


 ヴァルに肩を叩かれた。


 クローディアの中央は宿泊費が高いということで、少し離れた場所に宿を取った。近くにレストランやバーもあるし、少し歩けば中央通りにも行かれる。


 宿屋に荷物を置き、颯爽と街へと繰り出した。馬を探したりするのが本来の目的なんだが、いつもの感じだと観光するみたいな空気になりそうである。


「とりあえず体力があって大きい馬を探せばいいのか」

「そういうこと。でもちゃんと宿屋の主人に業者のこと聞いてきてるから大丈夫よ。近くに派遣業者みたいなのあるみたいだし」


 ヴァルは「こっち」と言いながら俺たちを案内した。


 五分程度歩いて馬の派遣会社までやってきた。なのだが――。


「は? 予約がいっぱい?」

「ええそうなんですよ。二週間先まで予約でいっぱいです」


 と、受付のお姉さんが申し訳無さそうに言った。


「じゃあ他の業者を紹介してもらえない?」

「おそらく、なのですが、他の業者も予約でいっぱいだと思いますよ?」

「クローディアの馬車派遣業ってそんなに儲かってるわけ? まあそうでもなきゃ派遣会社がたくさん作られることもないんだろうけど」


 ヴァルが言いたいことはわかる。いくら需要があったとしても二週間も待たされるものなのか、と言いたいんだろう。


「最近は野盗が頻繁に出るんですよ。軍部から下ってきたような、訓練された野盗ばかりみたいで軍人さんたちも苦労してるみたいですよ」

「軍部から下ってきたって、軍人崩れってこと?」

「みたいですよ。クローディアの軍人さんたちって入れ替わりが結構激しいんですよね。上の人がかなり厳しい人らしくて、気に食わない人がいればすぐに辞めさせるんだとかで」

「そんなんでよく上司なんてやってるわね……」

「優秀な人たちばっかりだけど、その分部下に求めるものが多いのかもしれませんね。それで屈強な野盗が増えたら元も子もないんですが」


 そうして、受付のお姉さんがまた眉根を寄せた。


「でもそれなら馬車だけじゃ駄目なんじゃない?」

「基本的には馬車派遣業者と警護派遣業者は繋がりがあるので、必然的にどちらとも契約する流れになりますね」

「なるほど。警護はいらなくても結局馬車はないと」

「申し訳ありません……」


 と、そこで俺はある疑問を口にした。


「警護派遣業者ってさっき言ってたけど、もしかしてその業者も軍部であぶれたやつらだったりしないか?」

「よくお分かりになりましたね」

「でしょうね」


 クローディアに来て間もないが、王都クローディアという場所がとんでもない闇を抱えているのはよくわかった。俺でもわかることだ、きっとえらーい方々もわかっているんだとは思う。わかっていてなにもしないのは偉い人たちが変化を望んでいないのか、面倒臭がっているのか、それとも別の思惑が絡んでいるのかは知るところではない。


 とりあえず二週間後の予約だけして馬車派遣会社から出た。そしてこれからの作戦会議のため近くのカフェに入った。


「さて、どうするんだい」


 キャロルだけオレンジジュース、あとはコーヒーを頼んだ。


「どうするんだいと言われてもね」


 と、ヴァルがため息をついた。


「二週間待つしかないだろう」


 ガーネットは背もたれによりかかり腕を組んでいる。呆れてしまっているようで、これ以上口を出す気はないといった雰囲気だ。


「つまり二週間はクローディアにいなきゃならないわけね」


 ノアもいい顔はしていない。時間がかかるということは、それだけ実家に帰るのが遅くなるということだ。当たり前の反応と言ってもいいだろう。


「観光し放題!」


 実家がないキャロルはこの通り能天気である。俺もこの世界に実家がないので深くは考えていないが、こうやって旅をするという状況が続くのは、正直面倒くさいなと思っている。やっぱりちゃんと家があって、そこで暮らす方が気持ち的には楽なのだ。呪いを早く解いて家を構えてしまいたい。仕事が見つかればの話だけど。


「そういえば気になったことがあるんだけど。野盗が出るから警護を雇うってのはわかるんだが、どうして馬車まで借りなきゃならないんだ?」

「二つの業者が提携してるからでしょ。野盗が出るってことは、今まで歩いていろんな場所に行ってた人も馬車を使うだろうし。町から町への移動だけじゃなくて、山や森に向かう場合にも馬車を使うことがあるってことなんだと思うわよ」

「そうなると確かに馬車が足りなくなってもしかたなーな」

「ということで我々は二週間あの宿に泊まることにします。特にすることはないけど」

「観光しよ、観光!」


 キャロルは遊ぶ気満々みたいだ。


「観光だって二週間ずっとはできないでしょ? どこか広い場所でもあれば剣術の訓練でもできるんだけど……」

「ノアの剣術はもう十分過ぎるほど使えるじゃないか」

「日々の鍛錬は必要よ。時間があるなら毎日やっておいて損はない」


 スポーツ選手とかでも「一日サボったら、サボった分を取り返すまでに三日かかる」みたいな偉い人からの言葉もあるくらいだしな。まあ間違っちゃいないんだろう。


 そのとき、カフェの中がざわつき始めた。このカフェは女性人気が高いのか女の子しかいないのだが、その女の子たち全員がキャーキャー言いながら窓際に集結し始めてるではないか。


「なんかの見世物でもあんのか?」


 なんて言いながらも野次馬根性で俺たちも窓際に向かう。女性陣が集合しているのはこのカフェだけではなく、道沿いにも目をキラキラさせた女の子がなにかを待っているようだった。なんとなく予想できてしまったのはきっと俺だけではない。


 そして、向こうから誰かが歩いてくる。青い軍服に銀色の鎧を身にまとった兵士の一団だった。

「あー、やっぱりね」


 先頭に立つ金髪の若いイケメン。おそらくはこの男を目当てに、女の子たちは窓際に集合していたのだ。

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