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 ノアの母親に馬車の代金を払ってもらい、俺たちは王都クローディアに向かう馬車に乗っている。ちなみに王都クローディアは女神クローディーネが住まうと言われている古くて小さな宮殿がある。


 ガタンガタン、ゴトンゴトン。


 前々から思っていたのだが、魔法だのなんだのとあるくせに馬車のクッション性がクソ過ぎる。うるさいし。


「そういえば気になってたんだが」


 最初に口を開いたのはガーネットだった。


「前置きしてもしなくても話すんならさっさと話せよ」

「なんでそんなに態度が悪いんだ?」

「馬車の乗り心地が悪いからだよ」

「なんだ、アンタも馬車の乗り心地悪いと思ってたの? なら最初から言ってくれればいいのに」


 なんて言いながら魔法を使うヴァル。急に車輪の音がしなくなるし乗り心地もふんわりとしてきた。


「最初からやれや!」


 腕を振りかぶるとヴァルが乳をガード。


「バカめ!」


 ガードを上げたせいで大事なところの防御が弱くなっている。


「ボディが!」


 俺の右手が下に下る。


「がら空きだぜ!」


 そのまま勢いを殺さずに手のひらが腹へと吸い込まれる。そしてヴァルの腹に触れるのと同時に腹部に詰まった贅肉をそこそこ強めにつねりあげる。

「俺の! 勝ちだ!」

「痛い痛い痛い痛い!」


 勢いよく体を捻って俺の攻撃から解き放たれたヴァル。


「なにすんのよ!」


 ドレスの腹部をめくってつねられたところを確認していた。そのドレス上下で分離するの初めて知ったけど。


 ドレスの隙間から見えたヴァルの腹はなんというか、どう言って良いのか、そもそも口に出していいのかっていう感じだ。


「なに見てんのよエッチ」

「お前に欲情しないって」

「じゃあなんで見てたのよ」

「その、お腹が、ね。ぽよんって」


 シュッと音がして、気付いたら俺は馬車の中で横になっていた。


「はっ……一体なにが……」

「触らぬ神になんとやらだぞ、エージ」


 ガーネットに肩を叩かれた。もしかしてヴァルにビンタされたのか。だとしたらとんでもない速度でひっぱたかれたことになるが大丈夫だったんだろうか。


「首、ちゃんと繋がってるよな……?」

「一度取れかかったがすぐにヴァレリアが治した」

「取れかかったんかい」

「冗談だ。少しの間気絶してただけだ」


 最近気づいたがガーネットは以外とお茶目だ。


「っと、また話が脱線したな。ガーネットはなにを言おうとしてたんだっけ? 俺を見てて劣情がうんたらだっけ?」

「そんなことは言ってない」

「じゃあなんだよ」

「この旅は呪いを解く旅なんだろう? 各々いろんな思いがあるんだろうけど、解呪が終わったらどうするのかな、と」


 確かに訊いたことがなかったな。それに俺もその後どうするかを決めていない。


「ちなみにお前は?」

「私は暗殺稼業に戻る。暗殺というかなんでも屋みたいなことをしようと思っている。今まで溜めた金で事務所を構えるのも悪くない。殺しをするっていうのも精神的によくないしな」

「そんなに稼いだのか」

「まあ普通の仕事とは違うからな。料金は高いが、もしも誰かを殺して欲しければ私に言うといい」

「マジで遠慮しとく」


 金額もそうだがやっぱりそういうことはよくないからな。


「じゃあノアはどうするんだ?」

「私? 私は実家に戻って家業を手伝うつもり。兄様も受け入れてくれるって言ってたしね」

「なんだ、俺の嫁には来ないのか」

「100%ないわね」

「でもまだ可能性はあるな。よし、もうちょっと頑張ろ」

「100%とは……」

「じゃあキャロルは?」

「私は……どうしようかな。正直行くところもないし」

「キャロルは私が責任を持ってギガントのところに連れていくからいいの」


 ヴァルがキャロルの頭を撫でた。キャロルは「ヘヘっ」と嬉しそうにしていた。


「じゃあ最後にヴァルはどうするんだ? あーでもどうするもこうするもないか。どうせ家に帰って前みたいな生活に戻るだけだしな」

「ちゃんと訊けや、頭吹っ飛ばすぞ」

「急に物騒。でも家に帰るだけだろ?」

「まあそうだけど」

 腕を組んで納得いかないような顔をしている。

「でもほら、この旅の中で素敵な王子様に出会うかもしれないじゃない」

「500歳越えて王子様夢見てるヤツには一生来ないと思うな。だって500歳過ぎたのに王子様が迎えに来るって信じてるわけでしょ? あり得ないのに? そんなヤツ、王子様どころかブルーカラーの飲んだくれだって近づきゃしないだろハハッ」


 おーっとヴァレリア選手、白目を剥いてダウンしてしまったー。


「コラっ」


 ノアに腕を叩かれた。このやや弱い感じのノアの一撃がたまらなく気持ちがいい。ちゃんと気遣ってくれてるのもわかるし、それでいてヴァルに対しての配慮も感じられるからだ。


 ただし、殴ったあとに俺の顔を見て「やべえやつ」みたいな顔するのだけは納得いかない。

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