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ツヤッツヤの顔でヴァルが降りてきた。
「っていうか今飛んでたよね? 飛行魔法とかあるんだよね?」
「飛行魔法なんていう物理法則を無視した魔法はありませーん。これは単純にすごいジャンプしてめちゃくちゃ長い滞空時間をもたせただけですー」
「物理法則うんたらって言い始めたら魔法そのものが全否定されてもおかしくないと思うんだが」
「はいこの話は終わり!」
「都合悪くなるとすーぐこれ。っていうかお前、ノアを助けるとか花街をなんとかするとかは実は口実で破壊行動楽しんでるよな?」
「楽しんでるように見えるわけ?」
「楽しんでいるようにしか見えないが」
「まあ九割九分正解だけど」
「正解かよ」
「あのね、アンタたちと行動し始めてから魔法をテキトーにぶっ放すってことができなくなったわけよ。今までは好き勝手ぶっ放してたってのに」
「テキトーも好き勝手もダメだろ」
「誰も文句言わなかったし」
「言えなかったのでは……」
魔女に楯突いたらなにされるかわからんしな。魔女というかヴァレリアという女というのが正解だろうけど。
「そんなこんなでストレスが溜まってたわけよ。少しくらいぶっ放したって別に文句言われないでしょ」
「一日に何度もぶっ放してるせいでこの町は穴だらけだよ」
航空写真で見たら廃墟判定されてもおかしくないぞ。
「まあまあ落ち着きなさい。そろそろ敵さんも出てくるみたいだしさ」
ガラガラと音をさせて瓦礫の一部が勝手に動く。何箇所も何箇所も、まるで土から這い出る虫みたいにしてハルファ商会の連中が地表にでてきた。
「何回見るんだよこの光景よお」
俺だって人を虫みたいに扱いたくねえよお。
「仕上げといきますか」
ヴァルが指を鳴らすと、どこからともなく強風が吹いて瓦礫のほとんどが吹っ飛んだ。遮るものはなにもなく、十三名の従業員が露わになった。皆なにが起きているのかわかっていないようで首を左右に振っては右往左往していた。
が、ヴァルの姿を見て固まった。そりゃこの状況で魔女がいればなんとなくこの状況を把握できるよな。特にヴァルは見た目からして魔女っていう雰囲気満載だし、尚更この状況を把握するにはうってつけだ。ハルファ商会の連中にとっては進行状況を把握するオブジェみたいなもんか。
「アンタ、魔女なのか……?」
「そうよ、魔女ヴァレリアよ。いやー、やっぱり溢れ出る魔女の魅力は隠せないものなのね」
なんだよこのやり取り。ヴァルがドヤ顔したいだけのやり取りじゃねーか。あと溢れ出てるのは服装のせいだぞ。オーラがあるとかそういうことじゃない。
「一体なんの用なんだ。こんなことして政府は黙ってないぞ」
そうだよな、普通は国が動くよな、こんなことしたら。
「国がなにをしてくれるっていうの? 国の戦力を総動員しても私には敵わないと思うんだけど」
「なんだよそれ。それじゃあお前たち魔女のやりたい放題じゃないか!」
「その代わり私たち魔女には責任があるから」
「責任……?」
今度は手を打ち鳴らす。なんで顔の横でドヤ顔で手を鳴らすんだよ。どんな演出を想定してるんだよ。
と、俺の思考とは関係なくぞろぞろと制服を着た連中が現れた。手には剣とか銃とか槍など武器を持っている。それに制服とは言っても学生が着るようなものではない。
「軍服、か?」
「そ、軍隊を派遣してもらった」
「誰に?」
「偉い人の知り合い」
「いつ連絡とったんだよ」
「電話で」
「電話あるの……?」
「でもめちゃくちゃお金持ちじゃないと持ってないし、ある程度魔法が使えないと通信できないやつね。魔法電話っていうんだけど」
「いいよ名称は、たぶんそうなんだろうなって気はしてたし。でも軍隊に引き渡すって、コイツらが問題行動を起こしてた証拠でもあんのか?」
「元々ハルファ商会は目をつけられてたみたいよ? だから私が後押ししたってわけ。それに調べれば証拠ぐらい出てくるでしょ」
「めちゃくちゃすぎん?」
まあそれで動いてくれるならいいのかもしれないが。
「それじゃあ帰りますか」
「最後はあっけなかったな」
「ヴァレリアさん!」
と、ここで軍人の一人に声をかけられた。
「なあに? 労いの言葉なんかいいわよ?」
軍人は走ってきて、肩で息をしながら喋り始めた。
「いえいえそういうわけにはいかないので」
ガチャンと金属音がした。どうやらヴァルに手錠がかけられたみたいだ。
「住民からの苦情もありますけど、そもそも街を吹き飛ばすっていうのは論外です。と、上から言われましたのでご同行ください」
「ちゃんとオチまでつけたな」
「オチとかそういうのいいから! 助けなさいよ!」
「ちゃんと事情を説明するんだぞ。ここで暴れたら指名手配犯だからな。じゃあな」
ヴァルを軍人さんに任せて歩き出した。俺は仲間の元に戻ろう。これでようやく先に進めるな。




