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500歳からの異世界奴隷召喚~召喚されたと思ったら500歳の魔女が奴隷だった~  作者: 絢野悠
1話 奴隷が幼女だったら受け入れたかもしれません
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 気がついたら、そこは暗い場所だった。壁も床も石のブロックで出来ているみたいだ。


「よっしゃー! さすが私! 天才魔法少女と呼ばれた経験すらあるこの私に不可能はなーい!」


 ちょっと年がいった女性が両拳を胸の前で握りしめていた。破顔した様子からも喜びようはひとしおだ。


 暗いけれど明かりがないわけではない。地面には俺を中心にして魔法陣のようなものが描かれておりそれが光っている。淡い光ではあるが、照らされて見えるその女性は割と美人なのだとわかった。


 目付きはキリッとしていて鼻も高い。少しウェーブがかった黒い髪の毛は、胸よりも少し下まで伸びている。その胸は大きく、それでいて腰が細い。好みではないが身長は俺よりも少し小さいくらいで、女性としては背が高い方だ。


 それよりも俺は全裸なのだが、そこに関してはどう思っているのだろう。


「あの、なんですかこれ」

「よく訊いてくれたわ。私が新たに開発した異世界召喚の魔法を実行し、お前を召喚したのよ」

「うわー、やべーやつ」


 そんなことより綺麗なお嬢さん、ここはどこですか?


「エスパーじゃないけど、その笑顔から察するに言葉と思考が逆になってるわよ」

「おっとこれは失礼した。で、もしかして俺はアンタに召喚されたってわけ?」


 きいたことがある。古来より「現実世界からなんらかの形で異世界に飛ばされて、世界を救ったり救わなかったりする」という、異世界転生や異世界召喚、異世界転移というジャンルがあると。よもや自分が体験することになるとは思わなかったが。


「そういうこと。しかしこれはただの異世界召喚ではない。異世界から奴隷となる人間を召喚する魔法なのよ。つまりお前は私の奴隷、ということになる」


 きいたことがある。美少女や幼女を奴隷として扱うジャンルがあると。しかし俺は男だ。そして全裸だ。


「さあ、私にかしずいて忠誠を誓いなさい。これは命令よ」


 女性が胸を張ってそう言った。どれくらいだろう、Fカップ以上はありそうだな。


「なにも起きないけど、俺はどうすればいいの?」

「ちょ、ちょっと待って」


 女性は背後の机に向かうと「おっかしーなあ」なんて言いながら本のページをバラバラとめくっていた。


 そこでピンとひらめいてしまった。読めたぞ、次の展開が。


「そこに正座しろ。これは命令だ」


 女性は「は?」と言った直後、身体を小刻みに震わせてからその場に崩れ落ちた。まるで電気を流されたみたいな動きだった。


「お、お前今なにした?」

「こういうのは流れってのがあるんだ。この感じだと、奴隷になるのは俺じゃなくてアンタだってこと」

「そんなバカな。私がそんなミスするわけ――」

「そこに座れ。これは命令だ」


 女性は躊躇なく石床の上に正座していた。よかった、正座が通じる。


「その可能性を危惧してたから座ったと」

「そ、そんなんじゃないわ。いえそうです」

「どっちなの……」

「仕方ないじゃない! 昨日酒の勢いで書き上げたんだから!」

「だからミスったのでは」

「仕方ないじゃない! 二十年ぶりに彼氏ができたと思ったのに、魔女だって知った瞬間に振りやがったのよ! 男なんて奴隷にしてコキ使ってやらないと気がすまないわ!」

「あー、うん。ことのあらましはなんとなくわかった。でも二十年ぶりって、そこまで年に見えないけど」

「褒め言葉として受け取っておくわ」

「いや、今のは遠まわしに「年教えて」って言ってるんで。できれば名前も。ああ、俺は麻宮映司、ピッチピチの十七歳」


 眉間にシワを寄せて睨まれた。たぶんいろんなフレーズがいろんなものを逆撫でしてしまったんだろう。


「ヴァレリア=エインデルン、五百歳。こう見えても世界ナンバーワンの魔女なのよ」

「なるほど。とりあえず立って話しようか」

「お前が座らせたんだろうが!」


 とか言いながらも立ち上がっていた。


「魔女、魔女か。俺を召喚できたのもそれが原因と」

「そういうことになるわね。とりあえず上行きましょう。話はそこで」


 彼女は顎で「ついてきて」と合図した。やれやれ、と思いながら俺はあとについていくことにした。


 階段を上ると、陽の光をやけに眩しく感じた。少しずつ目が慣れてくると、洋風の部屋だということがわかった。天井からはシャンデリア、高そうな絨毯に高そうなテーブルにイス。ありがちだが中世にタイムスリップしたみたいだ。


「そこ、座っていいわよ」


 指さされたソファーに腰を下ろす。ものすごい弾力だ。これも高価なものだろう。


 彼女は彼女で木造のイスに座った。少し幅が広い飴色のイスだった。


「さて、これからどうしようかな。魔法も失敗しちゃったし」

「とりあえずちゃんと自己紹介した方がいいと思うんだ」

「自己紹介ならさっきしたでしょ」

「いろいろ訊きたいことがある。ダメ? 命令必要?」

「必要ないからやめてちょうだい。で、訊きたいことって?」

「魔女って何人もいるんですか?」

「この世界には五人の魔女がいる。各々が五つの国を守っているの。ちなみに私が五人の中で一番強い。そして美しい」

「みんな長生き?」

「そうでもない。私以外はみんな普通の寿命。だから入れ替わりも早い」

「じゃあヴァレリアはなんで五百年も生きられてるんだ? そういう魔法?」

「さりげなく名前で呼ぶところ、嫌いじゃないわ。でもヴァルと呼んでくれた方がドキドキしないからそうして。この世界にはフェニックスという幻のモンスターがいるの。フェニックスの肉を食べると不老不死になるという噂があって、私はそれを実行した」

「俺の世界にもフェニックスとか不死鳥の伝説はあったよ。でも幻なのによく見つけられたな」

「家の前で小鳥に餌をやってたら釣られて降りてきた」

「嘘でしょ……」

「でも実は肉は食べてない。肉を食べなくても、フェニックスの身体の一部を身体に取り込めばよかったのよ。その文献を見つけ出してフェニックスを五年間探し続けて、そして出会った。フェニックスは餌を食べ、飛び去る時に一枚の羽を落としていったわ」

「それを食べた……?」

「素揚げで塩かけて食べたわ。わりと美味しかった」

「まあ素揚げに塩なら美味しく食べられるだろうけども。でもなんで不老不死になろうと思ったの?」

「老いていくのが許せなかった。当時二十歳だった私は、化粧のノリなんかが少しずつ悪くなっていることが気になって仕方がなかった。それにほら、巨乳じゃない? お尻も大きめだし、このまま老いたら肉が垂れていく一方だわ。それが許せなくてフェニックスを探した。そして不老不死になった」

「ちなみに当時彼氏は?」

「三人いた」

「最低だなアンタ……」

「当時から魔法の才能はあったから、不老不死になったあとは更に魔法の研究に勤しんだ。そして彼氏が二人増えた」

「言い出しっぺで悪いんだけど彼氏の話はもういいや。でも五百年も生きてて、魔女で、しかも一番すごいなら奴隷化の魔法くらいなんとかできるでしょ?」

「お前は魔法というものを勘違いしてる。超越した文化ではあるが万能ではない。魔法科学、魔法物理学、魔法機械学、魔法生物学っていろいろジャンルもあるのよ。一つの魔法を組み上げるのだって難しいんだから」

「じゃあ一生このままでいいの? 俺はいいんだけどね。年はいってるけど美人だし」

「年の話はやめなさい。奴隷化の解除もできないことはないのよ。私が解呪魔法が苦手ってだけでね」

「五百年も生きてるのに……?」

「年の話はやめろって言ってるでしょ! 魔法にはね、分類、型式、系統、製法という四つの要素からなるの。分類は自然類とか生物類、とかどういった物に作用するかというもの。型式は攻撃とか回復とか、どういった作用を起こすかというもの。系統はそれがどのような原理で留まっているかというもの。製法は用いられた魔力の種類や分量ね。魔法の世界では対象、行動、時間、作成とも呼ばれたりする。で、当然私はほぼ完璧なわけよ。苦手なものは滅多に存在しない。一部を除いてはね」

「それが解呪だと」

「そういうこと。特に奴隷化の魔法っていうのは、今回もそうだけど永続系の魔法なのよ。生物類呪詛型永続系多動法。この永続系っていうのが厄介で、時間が経ってもなにも解決しないのよ。例えばこう、炎を出します」


 ヴァルが手の平の上に炎を作り出す。


「これは作り出した瞬間から私の魔力を吸っている。つまり私の魔力が尽きれば魔法は途切れる。こういうのを消費系。逆にこの炎にある程度の魔法を宿したまま、空中に浮かせます」


 手を離すと、炎は空中に浮いていた。


「私からは分離されているけど魔力が残っている分だけ燃え続ける。こういうのを消耗系。五秒後に消えるという設定をすれば時限系。逆にそこを誰かが通過したりすると炎が出現したりするものを地雷系。まだまだあるけど触りだけね。で、奴隷化の魔法には永続系が適応されている。となると、お前が死なない限りは呪いが解けないということになる。そして私は解呪が苦手。詰んでるわ」


 見た目以上にちゃんとしている、というのはよくわかった。


「じゃあ一生このままか」

「一応なんとかしてくれそうな人は知ってる。私はお前が死ぬまで待っててもいいんだけどね」


 ニヤリと笑うヴァル。今までの借りを返すかのごとく、極悪人が人身売買を行っているときような笑顔だった。人身売買の現場を目撃したことはないが。


「わかってないと思うけどさ、俺はアンタに命令できるわけよ」

「口を塞げばいい。サイレンス!」


 俺の頭の周りに紫色の光の帯が出現した。ぐるぐると回っているようだった。そして、その帯が一瞬で俺に迫ってきた。

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