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「よう! 何してんだ?」
「ヒッ!」
彼が気軽に声をかけた相手は―長年、我が社のデザイナーをしていた男だった。
しかし今日行われた人事異動の会議で、解雇する予定に決まった。
その理由は、ヤツの手元にあるファイルだ。
「しゃっ社長! 今日はパーティーに出席なさっていたんじゃ…」
「気が乗らなくて、途中退場」
本当は予定通り。途中で抜け出すことは、最初から決まっていたことだ。
今、この時を向かえる為に。
「にしても、デザイン画は持ち出し厳禁だろ? それともコピーでも取るのか?」
「あっああっ…!」
40近い男は、すでに最新の流行を掴めなくなっていた。
それはすなわち、売れる商品を作れなくなったのと同じ意味。
ヤツの後釜はすでに決まっている。
俺は部屋の中に入り、ヤツからデザイン画のファイルを取り上げた。
つい最近、ここに入れられた古いデザイン画だ。
このデザインのアクセサリーはもう作ってはいないが、我が社の商品であることには変わりない。
ヤツは自分の感覚が衰え始めたことに気付き、そして会社から捨てられることにも気付いた。
やがてそれはイラ立ちに変わり、デザイナーという立場を利用し、この部屋によく出入りしていた。
この部屋はデザイナーにしか与えられないカードを使わなければ、入れないのだ。
そして警備室で出入りをチェックしたところ、コイツの出入りがここ1年で1番増えていた。
過去のデザイン画を持ち出し、他社に売りつけていたのはコイツなのだ。
「デザイナーとして、プライドがないのですか? あなたは」
「ちっちがっ…。ボクはっ…!」
「見苦しい真似はやめてください。こちらはとっくに、取り引き相手のことも調べ上げているんですから」
「ウチの秘書は本当に優秀だなぁ」
ククッと笑う彼に、ファイルを渡した。
「しかしあなたには長年、会社の為に尽くしてもらいましたし、黙認というワケではありませんが、訴えることはしません」
正確にはしない。会社のダメージになるから。