エピローグ
吾輩は地下迷宮都市へと戻りタマとの情事を思い出しながら、孤独で平穏な生活に戻った。
ある日、満子の部屋のちゃぶ台の湯飲み茶わんに、水が半分ほどたまっている。
臭いでこれが茶ではない事は解っている。満子が週に一度大事そうに飲んでいる酒である。
満子はこれを飲んで、真赤になって陽気になるのだが、毒の臭いがするので躊躇してしまう。
思い切って飲んで見ろと、勢よく舌を入れてぴちゃぴちゃやって見ると驚いた。
何だか舌の先を針でさされたようにぴりりとした。人間は何の酔興でこんな毒を飲むのかわからないが、猫にはとても飲み切れない。
これは大変だと一度は出した舌を引込めて見たが、また考え直した。
まあどうなるか、運を天に任せて、やっつけると決心して再び舌を出した。眼をあいていると飲みにくいから、しっかり眠って、またぴちゃぴちゃ始めた。
眼のふちがぽうっとする。耳がほてる。歌がうたいたくなる。猫じゃ猫じゃが踊りたくなる。
どうも愉快だ。
あてもなく、そこかしこと散歩するような、しないような心持でしまりのない足をいい加減に運ばせてゆくと、何だかしきりに眠い。寝ているのだか、あるいてるのだか判然しない。
前足をぐにゃりと前へ出したと思う途端ぼちゃんと音がして、はっと思った。
我に帰ったときは水の上に浮いている。
なんとか頭だけ浮くからどこだろうと見廻わすと、吾輩は風呂の中に落ちている。
水から縁まで足をのばしても届かない。飛び上っても出られない。呑気にしていれば沈むばかりだ。
もう出られないと分り切っているものを出ようとするのは無理だ。無理を通そうとするから苦しいのだ。
吾輩は前足も、後足も、頭も尾も自然の力に任せて抵抗しない事にした。
次第に楽になってくる。ただ楽である。否楽そのものすらも感じ得ない。吾輩の意識は消えた。
・・・心地よい光が全身に浴びせられている感覚が吾輩を起こした。これが天国と言うものだろうか?
恐る恐る目を開けると、セシリアから放たれた青い光が全身を包んでいた。不覚にもニャーニャと泣いてしまうと、セシリアは吾輩を抱きしめ、良かった良かったと何度も口ずさんでいた。
ただ隣の満子は、馬鹿猫馬鹿猫と罵っているのであった。
・・・
人間と亜人の争いは、まだ続いておる。
先日も、吾輩の胸に顔を埋めしくしくと泣きながら、一晩で数万人の亜人が亡くなったとセシリアは話していた。
真駒内駐屯地も、自衛隊に取り戻されてしまったようで、タマから聞いた下水溝を使った侵入方法をセシリアに教えてやった。
しかし、下水溝を通れる亜人は、ゴブリンとラミア位であろう。
人間と亜人は懲りる事無く、互いに殺し合いその数を減らしているようだ。
亜人はもちろん人間だって、そういつまでも栄える事もあるまい。
吾輩はこの争いの後、猫族の時代がやってくる予感を感じるのであった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
本編の地球へ転移してきた地下迷宮都市~セシリア札幌戦記~もよろしくお願いいたします。
完結と言う事で率直な評価を頂ければ幸いです。