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吾輩はセシリアの耳である



交尾の後、タマは協力的になり真駒内駐屯地の案内を始めた。


タマはここを縄張りとして人間達から餌を貰う事もあるが、飼われている訳ではないと言う。


歩きながら、タマは人間ほど不人情なものはないと言い始めた。


先日玉のような子猫を四匹産まれたのである。ところがここに住んでいる人間達が、タマから子猫を奪い取り何処かに連れて行ってしまったそうだ。


タマは涙を流してその一部始終を話した上、どうしても我等猫族が親子の愛を完くして美しい家族的生活をするには人間と戦ってこれを剿滅せねばならぬとまで言い放った。


真駒内駐屯地も隅々まで案内して貰った頃には、陽も暮れ始め生まれて初めて同族と肌を寄せ合い床に就いた。


翌日、朝から久しぶりの日向ぼっこを楽しんでいると、頭の中にセシリアの言葉が入って来た。・・・PXの近くに来てほしいと


タマにPXなる場所を教えて貰い、物陰から様子を伺っていると、セシリア達が出て来た。


セシリアは吾輩に直ぐに気が付き駆け寄ってくると、吾輩を撫でながら目線の先の人間が、セシリアがいない所で何を話しているのか聞いて欲しい頼まれた。


その人間は、セシリア達から離れると真駒内駐屯地で一番大きい建物の中に入っていった。吾輩は臭いを頼りにその人間へ近づいた。


吾輩は、床と天井の狭いスペースに潜り込み、この人間の声に耳を傾けた。


この人間は田中と言うようで、セシリア達への敵意は感じられず、むしろ好感を持っているようである。


しかし、吾輩の耳に聞き捨てならぬ会話が入る。


「セシリア陛下を名寄駐屯地へ移送しろと言うんですか?」


「国家緊急事態対処会議の決定事項だ」


「それじゃせっかくの友好ムードも一気に冷えて、戦争になってしまいかも知れませんよ」


「田中くん、気持ちは解る、私も同じ考えだ。しかし決定事項だ、何とか君の力で穏便に移送してくれ」


「穏便にと言われても・・・」


「じゃ頼んだぞ」


吾輩の耳に入った内容は、セシリアへ届いている。


もうやる事もないので、この暗く狭い空間でしばし眠りに就く事にした。




Zzzzzzzzzz! Zzzzzzzzzz!




吾輩は地鳴りを伴った爆発音で目を覚ますと、悲鳴と銃声が鳴り響いていた。


止むことのない轟音に、恐ろしくて寒くなり震えて歯がガチガチ噛み合うのを感じた。本当は見たくないのだけれど、こわすぎて外で何が起きているのか見たいくなり、建物窓から外を覗いた。



外では大量の遺体の上で、人間と亜人が殺し合いをしていた。



亜人が魔法で火やら雷やらを出し人間を攻撃し、人間は亜人を銃撃し戦車で踏みつぶしていた。


吾輩はあまりの恐怖で目をふさぐことさえできなかったのである。


戦車が亜人達に囲まれその動きを止めると一瞬の静寂の後、亜人達は歓声を上げていた。


外に静寂が戻ると、建物内の喧騒が耳に入って来るようになった。


吾輩はセシリアへそれを届ける為に、耳を澄ました。


「#%$&降伏?!」「%$&投降?!#$」「%$捕虜!?#」


複数の人間が怒鳴り合っている為、良く聞き取れないので心配だったが、セシリアからベルありがとう。貴方のおかげで無駄な死が減り命が守られます。


と頭に届いたのである。


すると単発的に聞こえていた銃声も止み、建物の中では人間と亜人は握手をしていたが、外の遺体は皆、先ほどまで、生きていた云う事実さえ疑われるほど、土を捏ねて造った人形のように、口を開いたり手を延ばしたりして、地面にころがっていた。


セシリアは取り返しのつかない酷いことになってしまったと、咽喉へ綿でもつめられたように立ちすくんでいる。


吾輩は、慰めてやろうかと考えたが、セシリアから放たれる殺人者の気配に緊張して身動きもでず、ただニャーニャと泣くだけであった。




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