プロローグ
吾輩は猫である。名前はベルだ。今現在、地下迷宮都市に暮らす唯一の猫族である。
地下迷宮都市の生活を紹介する前に、吾輩の半生を振り返るとする。
吾輩の苦難は、生まれて間もなく訪れた。
突然、昨日まで天使のような母猫が豹変し、私の縄張りから出て行け!と吾輩を追い出そうとしたのだ。
母猫は、猫族の生き方を語った。
猫族の生き方は、2つある。
野良猫として、誰にも束縛されず、一人で自由に生きて行く、縄張りを勝ち取り、自分で狩りをして食っていかなければならないが、交尾し放題だ。
飼い猫として、衣食住全てを人間に任せて、後は食っちゃ寝、食っちゃ寝の生活だが、自由は人間に制限されるし、一生交尾出来ない事もある。
自分で好きな方を選べと言い、吾輩を猫パンチで突き放し、ぎぃぃ! と毛を逆立てて追い出すように威嚇するので、その場を離れた。
宛てもなく、あぜみちをトボトボと歩いていると、蛙が見えた。
母猫に蛙の狩りを教えて貰っていたので、腹の減った吾輩は、生まれて初めて一人での狩りをする事にした。
息を潜め気配を消して近づくが、あと2,3歩の所で逃げられてしまうが、明らかに吾輩のスピードの方が上なので、追い詰めるのは時間の問題
・・・のはずであったが
ぬかるんだ泥の上では、吾輩のスピードは活きる事無く、蛙狩りは失敗に終わった。
体力を消耗し、濡れた体が体温を奪って行く、一人で生きて行くなど無理・・・絶望の淵に突き落とされたのである。
吾輩は、あぜみちの傍らでニャーニャー泣く事しか出来なかった。
すると、人間の子供が吾輩を、スーと持ち上げ抱き寄せたのである。
憔悴しきった吾輩は、不覚にもそのフワフワした感じのなか眠ってしまった。
目が覚めると、そこは暖かい部屋の中で吾輩は安堵感に包まれた。
吾輩が目が覚めた事に気が付いた人間の子供は、母親を呼びに部屋を出て行った。
そこから拷問のような仕打ちが始まるのである。
母親に抱きかかえられ、狭い小部屋に連れて行かれると、暖かいが非常に強い雨を全身に浴びせられた。
怪しい匂いのする液体を掛けられ、体中を指を立て掻き毟られると、吾輩はあっと言う間に泡まみれとなる。
その後、再度、暖かい雨を攻められるように浴びせられると、次は乾いた布で体中をゴシゴシされ、最後は、体を焼き尽くすような熱風にさらされた。
吾輩は、為す術もなく、このまま焼かれて、人間共に食べられてしまうのであろうと覚悟したものである。
後で解った事だが、泥で汚れた吾輩の体を洗ってくれたのである。
その後、牛臭いミルクが食事として用意されたので、飢えていた吾輩は、牛臭さなど気にせず貪るように食した。
満腹になった吾輩は、ついウトウトと目を閉じると待ちかねていたように無力感が沸き上がり、ゆっくりと心地よい眠りに落ちた。
Zzzzzzz! Zzzzzzz!
ガヤガヤ・・・ガヤガヤ・・・
辺りの喧騒に目を覚ますと、吾輩の目の前で、母親と仕事から帰って来たと思われる父親が言い争いをしていたが、吾輩は少し場所を変え、もう一度寝る事にした。
これから、吾輩はこの家庭で三食昼寝付きの生活が始まった。