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第弐話

こいつら初登場のくせに好き勝手暴れやがって……!!許さない…!!

再び戻った静寂の中、それまで闇の中に紛れ込んでいた三つの影が動き。倒れている少年の周りを囲んだ。


二つの月が、その影の(あるじ)たちを照らしだす。


一人は右眉の上に傷を持つがたいのいい男、一人はぼさぼさの髪をした童顔の男、そして、他二人より背が低く、大きくきりっとした目を持つ男。


三人はしばらく倒れている少年を見つめていたが、少年の意識が完全にないことを確認すると、一人の男が不意に口を開いた。


「こいつすっげぇなー。あの化け物一人で倒しちまいやがった」

「いや、なに普通に感心してんだよアニキ!!!俺らの獲物捕られちまったんだぞコイツに!!!!!」

「そんなにカッカッすんなよノスケ。おもしれぇモンが見れたからいいじゃねぇか」

「よくねぇよ!!!!コイツのせいで俺とアニキの勝負が流れちまっただろうが!!!!!」

「別にいいじゃねぇか、そんな大したモン賭けてたわけじゃねぇんだし」

「だから、よくねぇって言ってんじゃねえか!!!!アニキが気にしなくても俺が気にするんだよ!!!!!」


アニキと呼ばれたがたいのいい男に対して、ノスケと呼ばれた背の低い男が声を荒げる。しかし、がたいのいい男はそれを適当にあしらいつつ、倒れている少年が持つ抜き身の刀を腰に差してある鞘に納めてやる。


すると二人のやり取りを見ていた童顔の男がわらいだす。


「あっはははは!!ホント、キスケと誠さんって仲いいよねー」

「いや、なに笑ってんだよ優!!」


背の低い男が優と呼ばれた童顔の男を睨む。しかし、童顔の男はそれを気にせずからからと笑い続ける。


一頻(ひとしき)り笑ったあと、童顔の男はぴたりと笑うのを止め、足下の少年へと視線を向ける。


「──で、どうするの?この子。置いて帰る?それとも」

「──連れて帰るに決まってんだろ、こいつ面白そうだし」

「だよねー、誠さんならそう言ってくれると思ってたよ!あぁ、早くこの子と戦ってみたいなー」


童顔の男の言葉を遮って、がたいのいい男が言い放つ。それを聞いた童顔の男は少年を見て、うっとりとした表情を浮かべた。その目には好戦的な光が宿っている。


「……それに不破さんたちにも報告しなきゃいけねぇしな」

「アニキ、本気でコイツ連れて帰るのかよ?」

「何言ってんだよノスケ。あったりまえだろ、こいつこのまま地面に転がしといても邪魔にしかなんねぇだろ」

「いや、それもそうなんだけどよ……」

「獲物捕られちまったからってそんなにむくれんなよ」

「確かに獲物捕られたのも腹立つけど、それだけじゃねぇよ」

「じゃあ、勝負が流れたことか?」

「それでもねぇよ」

「わかんねぇよ。何がそんなに気に食わねぇんだよ一体」


不満気な顔をする背の低い男に向かってがたいのいい男が尋ねる。すると突然、童顔の男が手をぽんっと打ち、閃いたという顔をした。


「僕わかっちゃった、キスケがこの子を気に入らない理由」

「わかったのか優!?」

「うん、ちょっと考えたらわかったよ。それはね」

「それは……?」


ごくりと喉を鳴らしてがたいのいい男が童顔の男を見遣(みや)る。童顔の男は息を吸い一呼吸置いてから、真剣な顔つきで言い放った。


「──それはここ二ヶ月間ほどキスケが出陣してないからだよ!!!」

「な、なんだってー!?」

「誠さんよく思い出してみて?ここ最近のキスケを……」

「ここ最近のノスケ……?」


童顔の男に言われるままに、顎に手を当てて考える。するとがたいのいい男は何かを思い出したかのようにハッと顔を上げた。


「──ッ!?た、確かに。最近ノスケが羽織着た姿見てねぇ」

「でしょ?きっと、キスケはそのことに腹を立てていたんだよ」


童顔の男ががたいのいい男に囁くようにして言った。その言葉を聞いた男はくるりと背の低い男の方を向き、そして飛び付いた。


「わ、悪かったなノスケー!!俺無神経だったぜ……!!」

「ぎゃー!!!何すんだよアニキ!!!止めろ気色悪い!!!!」


当然、いきなり抱き着かれた背の低い男は叫びだし、暴れる。すると、身体を拘束していた腕が緩んだ。背の低い男はその瞬間に、がたいのいい男の顎に強烈な頭突きを喰らわせる。喰らわせられたほうは腕を放して膝をつきながら顎を押さえて悶える。


「ったく、いきなりなにしやがんだよ全く……」

「俺なりに慰めようとしただけなのに、ひでぇ仕打ちだぜこの野郎……!!」

「いや、あんなことされたら誰だってこうするだろ……」

「だからって本気で頭突くこたぁねぇだろ……!!お前石頭なんだからよ、少しは手加減しろや」


いててと言いながら顎を摩っている男を冷たい目で見遣る。そのやり取りを見ていた童顔の男はまたもや腹を抱えて笑っていた。


「つーか、アニキと優のあのクソみたいな茶番の方が俺的には酷かったっての。そして優、お前はまた笑ってんじゃねぇ!!!」


びしっと指を差された男はひーひー言いながら目を擦っている。どうやら笑いすぎて涙が(にじ)んだようだ。一方、がたいのいい男の方は顎の痛みから完全に復活し、倒れている少年を肩に担ぎ、他二人の方へと振り返る。


「お前ら、帰るぞ。いつまでもじゃれあってんじゃねぇぞー」

「いや、アニキがその台詞言うなよ!!」

「はー、笑った笑った。笑いすぎてお腹と顔が痛いよー」

「あーあ、今回良いことなかったなぁ……。獲物は捕られるし、アニキとの勝負は流れるし……」

「まぁまぁ、次があるよ次が」


彼らはその真朱(しんしゅ)の羽織をひらりと(ひるがえ)しながら、月明かりが照らす夜の道を歩いていった。

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