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異世界殺菌をする町医者  作者: 虹色水晶
異世界から日本に戻れば斬新な小説。なぜ誰も書かないのだろう?
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幕前の物語5

「なかなか依頼を完遂してくれそうな奴はこないねぇ」


「そうですねぇ。帝都は人が多いから簡単に見つかると思ったんですが」


 ロイとメルがそんな話をしているとまた新たな冒険者が店に入ってきました。


「いらっしゃ・・・!!」


 一目見るなりロイは息をのみました。

 使い込まれた鎧に身を包んだ剣士。ドワーフの戦士。神官の娘とエルフの弓使い。

 二十年前冒険者として数多の戦場を駆け巡り、多くの探索をこなしてきたロイの直観が告げます。

 彼らならば。必ず。


「よく来てくれたな。依頼の内容は冒険者ギルドで既に聞いていると思うが改めて説明させてくれ。こちらにいる娘さんが依頼人のメルさんだ」


「宜しくお願いいたします」


 メルは冒険者達に頭を下げました。


「カメリア村近くの洞窟になんでも厄介な化け物が住み着いたらしい。詳細は不明だが、数匹、あるいはひょっとしたら十匹は軽く越えるブレインイーターやダークエルフの巣窟になっているかもしれん。既に何十人もの冒険者が調査に向かったが、誰一人戻ってきてはいない。報酬は金貨5,000枚。金額から危険度を

察してもらって構わない。だがあんたらなら全員無事に帰ってこれると確信している。どうだ。引き受けてみる気はないか?」


 ロイは剣士達に依頼内容を改めて説明しました。だが、それに対する反応は意外なものでした。


「ゴブリンはいるのか?」


「え?」


「その洞窟にゴブリンはいるのか。と聞いている」


「ええっと、私自身は洞窟内を調べたわけではないのでゴブリンさん達が住んでいるかどうかは・・・。でもおそらく冒険者様達が大勢返ってこない事から考えてもっと恐ろしい怪物が」


「じゃあ断る」


 そっけない言葉でした。


「そ、そんな!」


「俺の名はゴブリンバスター。ゴブリンは人々の平穏な生活を脅かす邪悪な怪物だ。彼らをこの世から根絶するために俺は戦っている。奴らを倒す為なら俺は報酬がなくても戦う」


「いえ、ですから今カメリア村は平穏な生活を脅かされてるわけでして」


「ゴブリンじゃないんだろ?」


 リーダー格の鎧の剣士は重ねて聞きます。


「ええっと、恐らく洞窟にいるのはゴブリンよりかはもっと厄介な、でも村の人々に脅威が迫っているのは確かなはずでして・・・」


「ゴブリンじゃないなら俺達は戦わない」


 ゴブリンバスターと名乗った冒険者達は去ってしまいました。


「私は孤児院を経営している冒険者!」


「そしてぼくはにさいじなのにぼうけんしゃをしているぼうけんしゃだ!」


 メルは二人に仕事の紹介状を渡そうと思いましたが、流石に危険と分かり切っている仕事を依頼するのは気が引けました。


「ロイさん。何か良いお仕事はございませんか?」


「そういえば近々城で料理大会が開かれるって話だ。賞金も出るって話だし参加してみたら・・・」


「話は聞かせてもらったぞっ!!!!」


 直後にサウザンドスレイヤーロイの店に男が飛び込んできました。


「俺はあらゆる料理に焼肉のたれをぶっかける冒険者だっ!!その料理大会の優勝、俺が貰った!!!!」


「そうはいくか!その料理大会、この俺のドッグフードが優勝を貰う!この世界の人間ならば涙を流しながら食べるはずだ!!!」


「・・・そうか。俺は参加するつもりはないからがんばってくれ」


 今度は全身黒い鎧に身を固めた剣士が入ってきました。


「いらっしゃ・・・」


 ロイは普通に声をかけました。

 が、メルの反応は普段とはまったく違いました。

 まず普段料理を運ぶのに使っているトレイを黒い剣士に投げつけました。

 そして剣士がトレイを左手ではたき落す隙に姿を消します。

 いえ。消したのではありません。食堂の木製フローリング床を前転移動しながら円形テーブルの下を潜り抜けて黒い剣士の足元まで素早く接近。そして両手をついて逆立ちするように両足を天井に就きあげるように蹴り上げました。

 その高く上げられた両足は的確に剣士の兜のあごを捕えます。

 蹴り飛ばされた剣士の兜は食堂の天井付近を放物線を描きながら飛んでいき。

 その下から現れたのは。

 皮も肉も血もない人間の頭蓋骨です。


「スケルトンだ!」


 ロイは叫びました。


「警備兵のみなさぁああああああああああーんん!!!街の中にモンスターが入り込んでいますよーーーーっ!!!」


 速やかにメルは大声を出します。

 わざわざ彼女が大声を出したのは理由があり、それはここが街の中なので速やかに治安維持を担当する警備隊に通報するため。

 もう一つは近くにいる可能性の高い通行中の一般住民に危険を知らせる為です。

 魔法学科の学生は何らかのトラブルが発生した際に即座に無計画に攻撃魔法を発動するのですが、メルは武器を振り回したり足りする前にワンクッション置くタイプの人種なのです。


「なんだなんだ?」


「なにごとだっ?!」


「酒場の方からだ!」


「やや!こいつはっ!!!」


 メルの声を無事聞きつけてくれたようで、まもなく四人の警備兵が店に駆けこんできます。


「ふむ。バレてしまっては仕方がないな。俺のなまえ・・」


「先手必勝!」


 警備兵の一人が長槍の一撃をお見舞いしまいました。

 が、効果はいま一つのようです。


「な、効かない・・・っ!!」


「俺には余裕があるのでな。俺は魔王マイルズ様によって造られたスケルトンジェネラル。そんじょそこらのスケルトンとはわけが違うぞ。貴様らと同格並みの知能を持ち、また戦闘能力も高い。今回は人間共の街を偵察せよとの任を受け参ったが、まあばれてしまったようならやむえん」


 骸骨の騎士は大剣を抜きます。


「戦う前にいい事を教えてやろう。俺様には斬撃も刺突も効かん。魔法もある程度耐性がある。まぁ見ての通り不死者アンデッドなのでちぃとばかり聖属性や炎の魔法には弱いがなぁ。くくく、どうするかな?」


「お、おのれ!!」


 警備兵達は連携の取れた動きで剣や槍で攻撃を加えます。剣や槍はいずれも警備隊の支給品です。ですがやっぱり骸骨騎士のいう通り効果は今一つのようです。仮に彼らがサブマシンガンを持っていたとしてもどれだけ役に立つか疑問です。


「く、装甲だ!鎧を攻撃するんだ!」


「増援は、魔法使いはまだなのかっ!!」


「あらあらあら~~?なんか面白そうなことになってますねぇ?」


 気楽そうな声。丁度いいタイミングで魔法使いぽい冒険者が店に入って来ました。


「おおっ!冒険者か!ちょうどいいところに!この怪物に攻撃魔法を!!我々の剣ではダメージを与えられないのだ!!」


「あ、ウェイトレスさんお酒持ってきてよ。この店で一番高い奴」


 しかし冒険者は街の警備兵の頼みを無視して店内の椅子の一つに腰かけます。


「何をしている!はやくこいつを倒すのに手伝ってくれっ!!」


「そうだなぁ。じゃあまずは前金として金貨一万枚でも用意して貰おうかなぁ」


「なんだとっ!!」


「いやならいいんだ。街の治安を護るのはあんたら兵士の仕事なんだろ。俺達冒険者には関係ないからな」


「ほう?なかなか立派な心掛けの『英雄』様だな」


 骸骨騎士は自分にダメージを与えられない警備兵達を無視して椅子に座った冒険者に近づきます。


「見上げた心がけだが、貴様を放っておいて数か月、あるいは数年後に魔王マイルズ様に仇なす事がないとも考えられない。一応切っておくぞ」


「『ホーリィウォール』」


 冒険者は呪文を一つ。唱えました。彼が着席したテーブルの周りだけ青白い壁に囲まれます。


「こいつは聖属性の防護魔法だ。てめぇみたいな骸骨やろうが触れただけで大やけどするぜ?つまりこの店の、いやこの街の連中が皆殺しになっても俺様だけは安全って寸法さ」


「ほう?それは凄いな。ところで」


 骸骨騎士は手前勝手な魔法使いの青年に向かって右腕を突き出しました。


「この小手を見てくれ。よおくだぞ」


「ああん?言っとくがそんな安っぽい鎧に身を包んでも無駄だぞ。いいか?そんな鎧より俺の魔法の方がよっぽど強力なんだ。つまり異世界鎧は遅れているんだ。その鎧を売って金に変えて立派な武器を買ったらどうだ?まぁ骸骨のお前には店なんていけないし、この異世界には俺の魔法より強力な武器なんて売ってないだろうけどなwww」


「そうか。で、この小手をしっかり見ているよな。お前は」


「だからお前はそれ以上近づけな」


「いかん!全員伏せろっ!!!」


 二十年前、冒険者として活躍していた頃の直感がロイにそう叫ばせました。

 次の瞬間骸骨騎士が着用していた全身鎧のパーツすべてが吹き飛びます。

 小手を見つめていた冒険者はもちろん、やや離れた所にいた街の警備兵も肩当やら脛当ての後部分の直撃を受け転倒します。

 直撃したのは鎧のパーツです。

 もし警備兵達が鎧を身に着けていなかったら今ので死んでいました。

 いやあやっぱ鎧の防御力って素晴らしいですねぇ。


「ふむ。もう動けるのはいないかな?」


 鎧を脱ぎ捨て、大剣のみを持った動く骸骨は余裕に満ちた声で言います。


「・・・メルちゃん。逃げてくれ。せめて時間を稼ぐくらいの事は出来ると思う」


 ロイさんは包丁を持って全裸の骸骨騎士の前に立ちました。


「いえ。別に倒してしまうのでその必要はないかと」


「ふ、その老いぼれを生贄にすれば助かったものびょっ!!!」


 骸骨騎士は頭頂からの一撃を受けました。そして後方に二歩、下がると、ボロボロと崩れます。


「なっ?」


 呆気にとられるロイにメルはゆっくりと歩みよります。その手にはフライパンが握られていました。


「先ほどまで料理に用いられていたフライパンを使わせていただきました。フライパンは台所用品ですが、武器としてあえて使うならば打撃武器になるんです。そして直前まで火にかけられて加熱されていますから、不死のモンスターが大嫌いな火属性の力を帯びています。ロイさんは御存知ですか?」


 メルは何もない空間を、先ほど骸骨剣士を倒したようにブンブンとフライパンを振り回しながら言った。


「フライパンは鉄製ですが、直接火にかけてもドロドロに溶けないくらい、炎に強いんですよ?」

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