幕前の物語3
「困るな。非常にこまるな」
メイドの後をつけるようにやってきたのは高そうな、というより実際に高級品なのだろう。
サウザンドスレイヤーロイの店に訪れたのはジャケットを身に着けたネクタイをしっかりと結んだ男だった。年のころは30歳くらい。背は高め。
「メイドのようだが、君の名前は?」
男は尋ねる。
「メルと申します」
メイドは自分の名を名乗った。
「私はリバーヒップ。この帝都の冒険者ギルドで冒険者と名乗る住所不定無職共の、まぁ中には真面目に定職を求めて頑張っている連中もいるようだが、とにかくそいつらに仕事を斡旋している管理者の一人だ」
「では、そのリバーヒップ様が洞窟の怪物を退治してくれるのでしょうか?」
「違う。君が行っている一連の行為はギルドの規約に違反している。それはギルドを介さない依頼の直接受注だ」
「でも、小さな村や町で。あるいは個人が直接冒険者に仕事を依頼したり、或いは冒険者を直接雇用をしたりする前例は多々あります。またそれに関し厳罰が適用されたことは稀です」
「水掛け論をするつもりはない。君は頭の良い利発な女性のようだ。我々は依頼人から仕事を受注し、それを冒険者に紹介する。その手数料で儲けている。その邪魔をしないでもらいという警告でね」
「断るなら力づくで。ということですか?」
「裏で魔術師協会と繋がっているからできる力技だ。連中とは既得権益を維持するために利害が一致している」
「承知しました。では改めてギルドに御依頼をするという形を取らせていただきます」
メルは素直に従った。
「結構。ではこの書類に必要事項を、代筆の必要はないな?」
「はい。字は書けますので」
メルはペンとインクを受け取ると、流暢な筆記体で依頼表を書き上げた。
『
カメリア洞窟調査
概要:カメリア村近郊にある森林。その中腹に洞窟があります。
その中に迷い込んだ村人が行方不明になりました。おそらくは何らかの魔物がいると思われます。
既に大勢の冒険者が調査に行きましたが未だ何の手がかかりも得られていません。
我こそは『しんのゆうしゃだ!』という御仁。どうか洞窟の謎を解き明かしてください。
依頼人 :メイドのメル
場所 :カメリア村近郊洞窟内
予想戦力:これまでの経緯からブレインイーターもしくは上級高位魔族が数体以上と推定
報酬 :金貨5,000枚調査費用として現地での宿泊費無料』
「まぁこんなものだろ。では必要経費として冒険者に支払う報酬の一割をギルドで頂くぞ」
リバーヒップは依頼表を受け取りながら言った。
「え?一割?だとすると5,500枚ですよね?ですとちょっと予算が・・・」
メルが困った顔をし出すとロイが助け舟を出した。
「なら、うちの店で金貨五百枚分働けばいい。ちょうどウェイトレスが欲しいと思っていたところでな」
「本当でございますか?ありがとうございます!!」
「ギルドに戻ったらすぐに依頼表を張っておく。今日からすぐに腕利きの冒険者が来るぞ」
リバーヒップはそう言って店を後にした。