どこにでもあるファンタジー世界の酒場の日常風景
帝都。
『サウザンドスレイヤーロイの酒場』
それなりに店は賑わっていた。客層はいわゆる『冒険者』と自称される流れのならず者達が多い。
しっかりとした傭兵団やギルドに所属しているならともかく、そうでない者は本当に山賊と区別のつかない連中が多かった。
この酒場にいる者達のどれだけが正規の冒険者で、あるいはそうでないのか。見た目だけでは判断しがたい。
宿屋を兼ねたこの食堂で寝室のある二階に向かう階段近くにあるテーブルに座るこの二人組はどうだろうか。
一人は髪の短いメイド。もう一人は背の高い皮の服を着た女である。
「この世の中にはクラスというものが存在するのです」
メイドは言った。
「クラス?なにそれ」
皮の服を着た女は木製のコップに注がれた安酒を飲みながら尋ねる。
「クラスというはその人間が総合的に見てどういう職制に適した判断した物です。近接職ならセイバー。遠距離職ならアーチャー。乗り物を乗りこなすならライダーという風に」
「アタシの場合は?」
「まだ駆け出しなのでノービスですね。これから成長に従って適正したクラスに変化していくはずです」
「で、アンタはなんなの?」
「私ですか?私は見ての通りメイドです」
メイドは言った。
「メイドっていうのはメイドっていうクラスがあるわけ?」
「メイドはアサシンの上位職です」
なんとなく納得できるような、しかし府に落ちないような事を言った。
「いえ。この言い方は間違っていますね。メイドセイバー。メイドアーチャー。メイドシールダー。メイドバーサーカーなども存在します」
「メイドってなんなんのよ・・・」
「なんでもこなすのがメイドなので結果としてこの様なクラス配置になっています」
メイドは濃いめの塩味の豆スープに木サジをいれながら説明する。
「それと、通常のクラスとは全く違う、エクストラ、あるいはイレギュラークラスというものが存在します」
「イレギュラークラス?」
「その一つがバランサーというクラスですね」
「それは何が得意なわけ?」
「そうですね。私の知人にバランサーが一人いましたが、彼は魔力抵抗EX+。理論上あらゆる魔法を無効化する人物でした」
ガチャン!
隣で賑やかに食事をしていた三人組の男がテーブル上の豪華な料理をひっくり返しながら席を立った。
「お、おい!」
「あんた今の話は本当なのかっ!!」
震える声で尋ねる彼らは、見た目と服装からして、魔法学科の生徒だろうか。
その時入り口の扉が開いて、食堂に独りの少年が入ってきた。
「すいませぇーん。なんかギルドにお前バランサーっていうクラスだからここにいる冒険者の皆さんと一緒に色々教育して貰えってギルドのお姉さんに言われてきたんですがー??」
「バランサー・・・だと・・??!」
「お、あれがバランサーって奴か。お前何ができるんだ?」
皮の服を着た新米女冒険者は、バランサーだと名乗る少年に尋ねた。
「えっと、ギルドの受付の女の人の見立てでは、一時間に一回狙った相手の魔法を無条件で封じる事ができるらしいです。あんま強そうじゃないですね?」
「俺のそばに近寄るなああああああああああああああああーーーーーっっっっ!!!!」
「あんな危険な奴がいる食堂にいられるかっっ!!俺は田舎に帰るからなっっ!!!」
「アナザーーイジェクションッ!!!」
魔法学科の生徒は大きな声で叫ぶと、ある者は瞬間移動で、ある者は新規に導入したばかりのガラス窓をぶち破り。そしてまたある者は天井を破壊して空に逃げ去った。
当然の事のように食事代と酒代は払っていない。
「まったく困ったものだなぁ。魔法学科の連中には」
宿屋兼酒場の店主。ロイは笑顔のまま言う。
「天井も窓も修理しないで食い逃げなんて。かと言って魔法学科お断りって看板出したら差別だ人権侵害だってプラカード持って店の前で営業妨害するし。誰かなんとかしてくれないかねぇ」
ロイはそのまま掃除をするため、ほうきとちりとりを取りに向かった。




