生贄を伴う儀式の結果
トヨヒサルスは己の持つ魔力を以てして眼前のスケルトンを灰燼に帰すこともできた。
だがこのスケルトン。普通に人語を解する程度の知能はある。
その完成度の高さに敬意を表し、彼と少しだけ。会話を楽しんでやることにした。
「私の名前はトヨヒサルス。偉大なる上位高等魔族。その一人だ」
そう。緑色のイボガエルは地べたに腹をつけ四足のまま偉そうにそう語った。
「お前が、俺をこの世界に呼び出したのか?」
右手に板切れをを持った骸骨は尋ねる。
「そうだ。お前をこの世界に召喚するのに私はそれなりの労力を払っている。まぁそれに見合う対価を支払えるというのであらば私のやったことはそれなりの価値があったということだ」
「召喚ってどうやったんだ。緑ガエルのお前が」
骸骨は尊大な口調でトヨヒサルスに言う。
「その通りだ」
「どうやって?魔法陣を書けるような手じゃないだろ」
確かに。トヨヒサルスの両手は水かきがついている。
「我が一族には伝承があった。それに基づき探した。それがお前が今立っている魔法陣だ」
骸骨は足元を見た。
確かに。どこぞの古い遺跡の壁から引っこ抜いてきたような魔法陣がある。
正確な円と、複雑な文字配置。とてもではないが、このカエル野郎には描けないだろう。
「魔法陣はまぁなんとかなるな。緑ガエルのお前にも見た目以上の魔力があるみたいだし」
この時点で、カエルと骸骨。トヨヒサルスと、ツキシマ・マイゼンは自分と相手が互いに『同程度』の魔力を有していることに気が付いた。
だから、お互いを『別にたいしたことない奴』だと思っていた。
「それだけではない。お前を召喚するためにわざわざ生贄を用意して捧げたのだ」
「生贄を?」
「そうだ。まず森へ行き、長い舌を伸ばしてコマドリを捕えた。それだけではない。川に行って鮭を一匹丸のみにした。普通ならそのまま消化するところだが、今回は召喚の儀式を行う為子育てをする際同様半消火の状態で戻した」
「まんまカエルやろ。てか唾液まみれ胃液まみれの生贄で俺を召喚したのか」
「冒険者、と名乗る連中は『へへ、見ろよあのカエル野郎』が口癖でな。まぁ次の瞬間『助けてくれうわーーっ!!』と叫びながら私の胃袋に収まるがな」
召喚の生贄が唾液まみれの未消化人間でなかったぶんマシとすべきなのだろうか。ツキシマ・マイゼンは正直戸惑う。
「ともあれ俺がこの世界で骸骨なのが合点が行った。等価交換の原則からすれば当然だな」
「等価交換の原則?」
「魔術の基本だ。何かを得ようとする際には別の何かを消費する必要がある。まぁ別に魔術でなくても同じでな。例えばお前さんが魚を食べようとする。その際この洞窟から出て、川なり池に行き、魚を取らねばならない。つまり、『労働』という対価を払わねばあんたは魚が食べられない」
「だが人間共はどうだ?」
「ああ。盗賊とかか?その場合も同じだ。彼らも『暴力』という対価を支払わなければない。『食料』も手に入るし、『他者からの憎悪』というのもおまけで交換されるぞ。『憎悪』は『復讐』と等価交換される。あんたはそれがしたいんだろうが」
この骸骨。見た目より遥かに優秀なのか?
トヨヒサルスはそう思った。
「ていうかお前それ。本当の姿なのか?」
「ああ」
トヨヒサルスは答える。
「人間に化けれないの?」
「人間に?いや無理だが?」
トヨヒサルスは正直に答えた。
「変化のスペル教えようか?俺は属性の関係で使用できないがお前なら使えんだろ」




