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異世界殺菌をする町医者  作者: 虹色水晶
異世界から日本に戻れば斬新な小説。なぜ誰も書かないのだろう?
1/31

幕前の物語

小説投稿というのは色んな事が起こるもので

包囲殲滅陣のパロを冒頭にぶち込んだだけのつもりだったのに

いつの間にか一万字近くに膨らんでしまいました。

幕前は5,6くらいで終わる予定です。

 帝都に一軒の宿屋兼酒場があった。木造二階建て。二階部分は寝室。一階は食堂兼酒場。

 よくある冒険者の酒場である。店の店主は引退した元冒険者。

 店の看板にはこう書かれている。


『サウザンドスレイヤーロイの酒場』


「百万の魔物軍勢を倒したロイ様はこちらでしょうか?」


 どこぞの家中のメイドであろう。こんな荒くれものばかりが集う店に上品そうな娘がやって来た。まぁ時刻が昼間だけあって、そういう連中はまだ来ていないようだが。


「俺がカルリシの戦いに戦いに参加したのはもう二十年も前の話だ」


 ロイはそう言った。


「その時の名声でこの店を御建てになられたとか。大変なご活躍だったと聞いています」


「で、仕官のお誘いかな?それとも俺の獅子奮迅の活躍を聞きたいのかねぇ?」


 ロイは尋ねる。


「とりあえず簡単な食事と飲み物をお願いします」


 メイドは銀貨一枚をカウンター席に置いた。


「活躍って言ってもね。俺は何もしていないんだ」


 ロイは普段は言わない本音を口にした。


「雇われた、って言ってもその時たまたまカルリシの街にいた冒険者300人。その全員が戦わざる負えなかったんだ。生き残るためにね。カルリシの街。魔王マイルズの軍勢に攻め滅ぼされちまって今はもうない街なんだが、そこの街に荷物を届ける仕事をした。宿屋に泊まった翌朝。何やら騒がしい。起きてみると街の周り中化け物だらけ。つまり最初から敵側に包囲殲滅陣を仕掛けられてたってわけさ」


      ソーセージ

        ↓

ソーセージ→サンドイッチ←ソーセージ

        ↑

      ソーセージ


 メイドに出した料理。

 皿にロイは皿にサンドイッチとソーセージで陣形を再現してみせた。


「おまけに厄介な事に街の上にワイバーンの大軍が飛んでいてな。こいつらが火を吐いてんのか上から石を落としてんのか。街のあちこちから火の手が上がっていたよ」


 と、暖めたミルクを出した。このミルクの湯気のように煙が街のあちこちから上がっていたに違いない。


「逃げるわけにはいかなかったんですか?」


 メイドは尋ねる。


「こっちは300人。向こうは50,000匹はいたんじゃないかねえ。ま、正確にはわからんさ。とにかく地面を埋めつくほどいたさ。オークゴブリントロルブレインイーターデュラハンスケルトンケンタウロス

ダークエルフ・・・まぁ化け物共の朝市って感じだったね。諦めて自分で首切ったり毒飲んだりした奴もいたから味方はもっと少なかったはずかな。でも誰かが叫んだんだよ。『この戦い。9割僕らの勝利だ!!!』ってね」


「9割?勝てますか?その状況下で??」


「無理だと思うね。特にワイバーン類。あいつらは地上に絶対降りてこない。歩兵が接近戦を挑むなんて無理だ」


「となると遠距離魔法と弓が重要になりますね」


「でも冒険者は弓職を嫌うんだよ。カッコ悪いって」


 程よく後退した髪と、ちょい髭の店主は苦笑する。


「あーなんか『私は悲しい』とか言いつつ実は喜んで善良な村人を虐殺してそうなロンゲのイメージが強いですよね」


「だろ?」


「魔法職はどうです?あっちは多いんじゃないですか?」


「真っ先に転移魔法で逃げたよ」


 その時の胸中は如何なる物か。想像できるものではない。


「・・・そういう連中も多いですよね」


「仕方ないから残った俺達が、魔法学科の連中が『ゴミ』扱いする戦士職が剣やら短剣やら斧やらを振り回しながら最後の突貫をしたんだよ」


「でも、この酒場で料理を出している貴方は幽霊ではありませんね?」


 メイドは確認する。


「ああ。どうせ最後の戦いだから自分がぶった切った魔物の数なんて覚えちゃいない。でも十匹目かな?二十匹は倒していないはずだ。あたりが静かになっているのに気付いた。周りで生きているのは味方の、人間だけだ。気づくと敵の魔物は敗走を始めていたんだ」


「300の冒険者で50,000の魔物を一掃していた?」


 メイドはカルリシの街で過去に起こっていた事象を確認する。


「ああ。奇妙な事にね。でも、変なんだ」


「奇妙な事とは?」


「生き残っている味方がいれば助けて手当てしないとだめだし、魔物はトドメを刺さないといけない。だから死体を調べて回ったんだ。味方の死人は60人ばっかしだったかな。それはまぁいいんだ。問題は魔物の方さ」


「何かおかしい事があったんですか?」


「実はね。50,000匹の魔物と戦っていたはずの死体はどう見繕っても500程度しかなかったんだよ」


 ロイは釣り銭の銅貨五枚を出しながら言った。


「な?変だろう?相手は五万匹。こっちの百倍近い数がいたんだ。にもかかわらずほんの500匹程度の損害が出たくらいで逃げ始めたんだ。まぁお蔭でこっちは命拾いしたし」


 ロイは天井を指さして。


「一人で一万匹の魔物を倒した英雄。ていう妙な仇名がついちまってな。まぁお蔭でこうして店も持てたから文句は言えんが・・・」


「ロイ様は50,000匹の魔物と戦いました。十匹の魔物を倒し、同時におそらくは千匹の魔物を倒しています」


「は?何言っているんだお前さん?」


 ロイはメイドの言っている言葉の意味が理解できなかった。


「ロイ様は五万匹の魔物と戦い、その一割に当たる十匹の魔物を倒しました。ほぼ壊滅状態になった魔物の軍勢は個々に退却したのです」


 サンドイッチを食べたことがないのか。わざわざナイフとフォークで切り分け、口に運びながらメイドは答える。


「おいおい。お前さん。もしかして金貨百枚を数えろって命令されたらテーブルに並べて数えるくらい計算ができないのかい?それじゃあうちの店では雇えないなぁ」


「ロイ様。先ほどカルリシの街は魔物に囲まれていた。そうおっしゃられましたね?」


「ああ。そりゃまぁ見事なまでの包囲殲滅陣ほういせんめつじんだったよ。敵側の魔物が街を取り囲む包囲網を完成させてんだから中央突破も右翼も左翼もへったくれもありゃしねぇ。おまけに御空はワイバーンやら得体の知れねぇでっけぇ鳥やら気味の悪い人間の顔がへばりついた鳥の化け物やらが飛び回ってんだ。飛んでる連中をはたき落したくても弓も足りねぇ魔法使いも足りねぇ。地べたで剣を振り回してもアタリャしねえ。完全にお手上げだったさ」


 本当は包丁を振り回したかったのだろうが、すぐそばにメイドが、女性がいるのでフライパンに持ち替えた。このロイという男性。意外と紳士である。


「あーでも誰だったかな。『9割勝てる!』って言ったんだよ。うん。これさっきも言ったか?」


「その百倍近い戦力の中に、ブレインイーターさんが混じっていたんですよね?」


「ああ。そうだよ。オークやトロルに紛れてあの人間の脳味噌を好んで食べる化け物がね。嬢ちゃん。戦ったことは?」


あるじの名声を高める為に兵を雇ってゴブリンさん狩りや盗賊討伐をした程度でブレインイーターさんのような危険な魔物と戦ったことはございません」


「まぁそうだろうな。連中はこの世界に住む怪物の中でも特殊な部類でな。なんでも『ニッポン』とかいう異世界から来たっていう噂だ」


「ニッポン?」


「面倒くさい化け物はすべてニッポンからやってくるのさ。で、そのブレインイーターだが、馬鹿でっかい脳味噌に人間の胴体みたいなのがついている。目や耳はない。首の根元あたりに口があって、そいつで人間やエルフの脳味噌を食うのさ」


「脳味噌を?」


 本当に知らないのだろう。キョトンとした表情を浮かべる。


「そうだ。ちなみに内臓とか手足とか他の部分はまるまる残す。他の人食い怪物なら全部食うんだがブレインイーターは頭しか食べない。だからブレインイーターって呼ばれている。あと連中は頭がいい。噂じゃ並の人間の魔法使いの二倍は賢いそうだ」


「並の人間の魔法使いの二倍?」


「まぁ頭そのものがむき出しの脳味噌だからな。魔法も得意だし、当然俺達人間の言葉も喋れる。

あんたブレインイーターと話した事あるかい?」


「いえ。あいにくと」


 そりゃそうだ。たぶん本物と会ったら今頃頭を齧られて死んでいるはずだ。


「俺は現役時代金貨五万枚で討伐依頼を受けたことがある。偉く強い魔物だって噂だったから仲間を50人ほど集めて住処だっていう洞窟に行ったよ」


「全滅したんですか?」


「40人ほどやられたね。一応勝ったが。で、そん時出くわしたブレインイーターの奴がなんて言ったと思う?


『君達を殺す気はない。僕たちは食事をするだけだ。脳死は人の死ではない。だから君たちの脳を食べさせてくれ』


 既に犠牲になった何十人という村人の穴の開いた頭蓋骨の上でそいつは言いやがったよ。どうも連中は言葉が通じても、考え方の根本が俺達人間とは決定的に違うらしい」


 ロイはフライパンをフックに戻した。


「で、そのブレインイーターがどうしたって?」


「彼らは魔法が得意な魔物なのですよね?」


「ああ」


「そして、空には飛行種の魔物がいた」


「ああ。上から火やら岩やら落とす度に街の家々がぶっ壊れてたよ」


「そしてロイ様が十匹ほど魔物を倒すと魔物の群れは退却を始めた」


「そうだよ」


「謎はすべて解けました」


「謎って?」


「簡単です。包囲殲滅陣など存在しなかった。が、包囲殲滅陣は存在していたんですよ」


「さっきからお嬢ちゃんの言ってる言葉の意味がよくわからんのだけどねぇ」


 ロイは首をかしげる。


「魔法の特異なブレインイーターさん達が、幻術魔法をかけていたんです。街全体に。ね」


「幻術魔法??!」


 連中、そんなの使っただろうか。現役時代の記憶をたどる。なんか稲光みたいのを出して、それは仲間の魔法使いのバリアを貫通し、喰らった魔法使いは一撃で倒されたのをよく覚えている。うーん。どうだったかなぁ。


「まず最初に夜のうちに魔物の軍勢がカルリシの街の周囲を囲みます。数はそうですね。千匹から二千ぐらいでしょうか」


「それが先陣か?」


「そして夜明けと共に航空部隊が空爆開始ですが、ここでブレインイーターさんの幻術が威力を発揮します」


 メイドは皿に載せられたソーセージを四本。並行に並べた。


「一体の飛行種の魔物につき三体の幻影を用意したとします」


「おいおい。どいつもこいつも全部本物だったぜ。矢が当たれば悲鳴をあげたし、誘導魔法のライジングスパークを喰らえば炎を吹きあげて墜落していったさ」


「その魔物の死体ですが」


 メイドはフォークでソーセージを突き刺し、口に入れた。


「確認なさいましたか?」


「ああ。ちゃんと『戦闘終了後』にな」


「そう!戦闘終了後!!そこが重要です!!撃墜した魔物がいても、その死体を確認する余裕はありません。熟練の冒険者なら当然。こちらが押されている状況下なら。牙だの鱗だのを回収するのは後回しにするはず。『撃墜される忠実な姿』の幻影をブレインイーターさん達は用意していたんですよ」


「飛行種の魔物が撃墜される忠実な姿?なんでそんなものを??」


「実際の数より多く見せるため。そして本物を攻撃されるのを防ぐ為のオトリ。デコイです。亡くなった父はえっと、『ばるーんだみー』とか『ふれあー』とか色々呼んでましたが、とにかく攻撃を避けるための幻覚術です」


「攻撃を避けるのはわかったが、なぜそんな手の込んだ真似を?」


「弓矢と魔力の無駄撃ちをさせる為です。彼ら魔物は自分達の『味方』の飛行種魔物が人間に撃墜される様子を間近で見ているわけですから、その忠実な再現は容易なはずです。落下していく先は、既に炎上している民家。街の外など、死体の確認が困難場所を指定する。こうすることで『無限の飛行軍団』の完成です」


「幻覚魔法なら途中で誰か気づきそうなもんだが・・・」


「ライジングスパークは誘導魔法ですよね?丁度ライジングスパークに反応するよう偽物の魔力反応を

幻影につければ完璧なデコイになるはずです」


「んーじゃあ地面にいる魔物は?」


「こっちは普通に数を増やしていくだけですね」


 メイドはサンドイッチを三つに切った。


「本命が一つ。後の二つは幻覚で動く偽物。ただし本命の命令で『移動しろ』『攻撃しろ』『岩陰に隠れて待ち伏せしろ』というある程度それっぽい動きをします。倒すと十秒か三十秒くらいで死体が消滅。再び本体の付近で再出現します。これもまぁ、乱戦だからできる幻覚魔術ですね」


「幻覚で死ぬか?六十人もやられてるんだぜ?」


「幻覚と必死になって戦っている間に本物のゴブリンさんがサクッ。と、後ろからやればいいんですよ。たぶん大勝利のお祝いに頭だけブレインイーターさんにプレゼントする約束だったんでしょう。死んだ仲間の中に頭を割られた人は?」


「そういえば・・・いなかったような気がする」


 どいつこいつも死に顔が綺麗で、身元の確認が偉く楽だったのを覚えている。


「そして最後のピースですが、ロイ様は十匹の魔物を倒した。おそらくはその中にブレインイーターが混じっていたんでしょう。つまり幻覚を造っていた大本命」


「ええぇと。つまりどういう事なんだ?」


「あの場にいた魔物は50,000匹。幻覚含む。幻覚を切りつけても1匹づつしか減らせませんが、本物を切りつければ100匹。そして大本命のブレインイーターを倒せば一万匹減らすことが出来たんです。ロイ様。貴方は10匹しか倒していませんが、確かに一万匹の魔物を倒していまします」


「えっと、つまり俺は闇雲に突っ込んでいるうちに幻覚に隠れていた敵の親玉を偶然やっつけちまったってことかい?」


「簡単に言えばそうなりますね」


 メイドはミルクを飲んだ。


「貴方は正真正銘の英雄です。貴方の実力なら余裕で魔王マイルズを倒せるのでは?」


 その質問にロイはこう答える。


「俺は産まれも育ちもこの異世界せかいの人間だよ?能力表示ステータスオープンって叫んで自分がどれくらい強いか目で見えて分かるわけじゃないんだ。自分の店で酒を飲んで暴れる魔法学科の不良生徒を摘み出すのが関の山さ。で、あんたは自分の能力が視えたりするのかい?」


「いいえ」


 メイドは即答した。


「だろう?そんなの『自称勇者様』達に任せて、俺達は奴らに酒や料理を運んでればいいのさ」


「そうですね。私の仕事も御主人様に仕える事であって、魔王マイルズを倒す事ではありませんから」


 もし、『ニッポン』から来た、他人の能力を自由に視れる力を持つ人間がいたらこう思うだろう。


「なんでレベル90超えた剣聖が酒場のマスターなんてやってるんだろう・・・・?なんでメイドがスキル魔神潰しなんて持っているんだろう・・・?」

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