これでやっと……!
「危険……は特にないのぅ」
カメドノがそう言ってくれて、あたし本当にほっとしちゃった。良かった。誰も痛い目に遭わなくてすむんだ。
「ワシが少々面倒なだけじゃのぅ」
「えっ……すみません」
「さっき長いこと甲羅に水をかけてくれたからのぅ、それでよしとしよう」
ラッキー! って聡がガッツポーズしたけど、水かけてくれてたのは雅人おにーさんだからね?
さすが雅人おにーさん、とくに意識もせずにいい仕事するなぁ。
「そんじゃぁ~行ってくるとしようかのぅ~」
のんびりとそう呟いて、カメドノがちゃぽん、と水の中に入っていく。すっごくキレイで透明な水だけど、カメドノがあんまりぐんぐんぐんぐん潜っていくから、さすがに見えなくなっちゃった。
すごいなぁ、どこまで潜っていけるんだろう。
あたし、お風呂の底くらいまでしか潜ったことない。カメドノってぼんやりに見えてすごいのね。
「あ」
見えなくなったって思ってたのに、しばらくしたら、底のほうからなんだかキラキラしたまあるいのが上がってくる。
「うわ、眩しっ」
「太陽が反射してるのかな」
聡と雅人おにーさんが眩しそうにしてるけど、確かに優しいキラキラじゃない。ときどきギラッてすごく光るもんね。
……あれ? あ、あの光ってるのってカメドノが咥えてたんだ。よく見たら、光の後ろにカメドノがいるもんね。
「よく見たら鏡っぽいな。丸い鏡の縁に綺麗な装飾が施されてるんじゃないか?」
「うわ、ホントだ。すげーなぁアレ、レアアイテムっぽい」
へえー鏡? 雅人おにーさんのお部屋にも、四角いのがあるよね。
雅人おにーさん達が話してるうちに、カメドノがぐんぐん近づいてきて、ついに水から顔をだした。
「ご苦労さん」
「はぁ~今日は疲れるのぅ」
スオーさんがカメドノの口から鏡を受け取ると、カメドノもゆっくりと水からでてきた。カメドノは水の中では動きがシュッとしてるのに、陸にあがるととたんにゆっくりになるのね。
「そこの子狐」
「あたし?」
「そうじゃ。ほれ、そこの鏡に身を映して、欲しい能力を一心に願うんじゃ」
「えっ!? それだけ?」
「そうじゃぁ。願う力が弱いと『選び直し』にならんでのぅ、真剣に願うんじゃぞ」
「へー、選び直すとこってオレ、初めて見るよ」
頑張ってね、さくら、ってスオーさんが応援してくれる。見上げたら、雅人おにーさんは心配そうに、聡もはわくわくした顔であたしを見ていてくれた。
「ほい、オレが鏡持っててあげるから、鏡の前においで」
スオーさんが鏡をこっちに向けてくれる。あたしこれでやっと、雅人おにーさんたちとも話せるようになるんだね……!
ドキドキしながら、あたしは鏡の前に立った。