選び直し
「面倒だから人間にも姿が見えるようにしてあげてくれる?」
蘇芳さんの要請に「面倒じゃのう」とぼやきつつ、亀殿が姿を現す。俺にもはっきりと見えるようになったけれど、聡もようやく見えたようで隣で「うおっ」と叫んでいた。
しかしやっぱり、亀でも長く生きてると分かるもんなんだな。体は普通の亀に比べてずいぶんと大きくて、両腕を回しても届かないくらいに大きい。多分甲羅の直径だけで1mはあるだろう。
そしてその甲羅には苔やら水草やらが生えていて、長い年月ここで暮らしてきたんだろう事がうかがえる。なにより尻尾の辺りから、柔らかそうな藻がひらひらと長く伸びている。
どうみても何百年と生きていそうなご長寿亀さんだった。
「は、はじめまして、俺……」
「あー……よいよい。どうせ覚えられんのよ。して、ワシは何をすれば良いのかのぉ?」
挨拶しようとしたら遮られた。どうやら詳しく事情を聞いてくれる気はないらしい。
「もー、かめ殿はどこまで面倒臭がり屋なんだ! だいたいアンタ、シラト様やコタカ様よりもずっと若い筈だろ!」
「え、そうなの?」
「そーだよ! なんなら俺より若いよ! 爺さんのフリして面倒なこと回避してるだけだって」
「異な事を言うのぅ」
蘇芳さんの主張に、亀殿は不服そうだ。
「お主らは若い時分に格があがったのであろうが、ワシはこのとおり、爺になってから神への道を歩き始めたんじゃぁ、そりゃあ肉体に違いも出よう」
そう言われるとそうな気もする。神様の世界の常識なんか俺には分からないから、どっちの言葉を信じればいいのかは結局分からなかった。
「それで? 何をしに来たと言ったかのぅ」
「まだ詳しくは言ってねえよ」
「さっさと言ってくれんかのぅ。まだ眠いんじゃが」
確かに、早くしないと帰りが怖い。蘇芳さんもそう思ったのか、ちょっとだけ舌打ちしつつ本題に入った。
蘇芳さんはてきぱきと、俺とさくらに必要な助力を述べていく。さくらは人語を話す力、俺は増えた潜在霊力を引き出す力。それが今回求めている内容だ。
亀殿は「ほー………………」と呟いて、しばらく黙る。
何かを考えるように空を見上げて目を閉じる姿は、長老、とでも言いたくなるような威厳たっぷりなものだった。
「おい、じじい。寝てねぇだろうな」
「起きておるわい」
蘇芳さんが半目でつっこめば、亀殿が失礼な、といいたげに返す。ふたりはなかなかいいコンビだった。
「んー……あれじゃな、その仔狐は選び直しがよいじゃろうのぅ」
「選び直し?」
なんだそれ。
俺は足元にちんまりと座っているさくらと顔を見合わせた。




