歩けど歩けど
「まだ……?」
「死ぬ……」
「だからもうちょっとだってば。君たち本当に堪え性がないね」
さっきから何回繰り返したか分かんないくらい、この会話が続いてる。そうだよね、あたしが水の匂いがするって言ってから、かれこれもう30分は経ってると思うの。だって雅人おにーさんの腕にある時計が半分くらい進んだもの。
山道になんて慣れてない雅人おにーさんと聡は、本当に死んじゃいそうに顔色が悪い。森の中でお日様の光は直接あたらないけど、空気が熱いのは止めようがないもんね。もうねぇ、汗がすごい勢いで落ちてくるの。体じゅうの汗が全部出ちゃうんじゃないかなってくらいよ。
「もうムリ……ラスト、飲む……」
「俺も」
二人はその辺の枯れ葉の上に腰をおろして、ペットボトルをあおぐ。最後の一滴まで飲み干して、恨めしそうに空のペットボトルをバッグにしまった。
二人とも、ついに空っぽになっちゃったね。でもここでポイって捨てないのはえらい! 雅人おにーさんは当然として、聡も大雑把そうに見えるのに、こういうとこはちゃんとしてるよね。百合香おばーちゃんも褒めてくれるよ、きっと。
「仕方ないなぁ」
そう言ってスオーさんが左腕をゆったりと回すと、どこからともなく涼しい風が吹いてきた。
「涼しい」
「生き返る〜」
そよそよと吹く風に髪やシャツがなびいてとっても気持ちよさそう。聡なんか両手を広げて出来るだけ風にたくさんあたろうとしてるみたい。
「まったく、世話がやけるよ」
「この風、スオーさんが操ってるの!? 尻尾が増えるとそんなこともできちゃうようになるの!?」
「おれは尻尾が四本くらいで覚えたね」
「すごい! すごい! すっごく便利!」
「便利って……」
だってすっごく便利じゃない。雅人おにーさんが暑いなぁって思ったら、こんな風に助けてあげられるんでしょ? いいなぁ、あたしも早く尻尾が四つにならないかなぁ。
「どう? 少しは元気でた?」
スオーさんが尋ねると、雅人おにーさんも聡も頷いて立ち上がる。良かった、ちょっとは汗もおさまったみたい。
「この風、蘇芳さんが?」
「うん、さすがにバテすぎだったからさ」
「ありがとうございます。おかげでもうちょっと頑張れそうかも」
雅人おにーさんが言えば、聡も「蘇芳さん、すげー!!!」って全力で褒める。聡ってすごいと思うと顔にも声にも態度にもまっすぐ出るからいいよね。そんなところは気に入ってるんだ。
「じゃあ、行こうか」
「だな、帰ってくること考えたらあんまり遅くなるのもアレだし」
スオーさんが送ってくれた風でふたりともずいぶん元気になったみたい。さっきよりも足取りが軽い。そうしてまたしばらく歩いたところで、行く先の方が急に明るくなってきた。
そして。
「なんか、ごごご……って音がする?」
「するね」
音がなんなのかわちょっとわかんないけど、 向こう側が明るいのは、お日様の光? もしかして、森が終わるの?