少しだけ、助力してやるとしよう
「なんだ、さくらはあのお方ではなく、雅人の役に立ちたいのか?」
「うん。だってね、雅人おにーさんはね、あたしを助けようとしてくれたの。それまで会ったこともなかったのに、死にかけてるあたしを見つけて抱っこして、一生懸命になんとかしようって頑張ってくれたんだもん」
「ふむ、そうかそうか」
スオーさんとのお話を聞きつけたのか、シラト様がやってきてそんなことを話しながらまたあたしの頭モフモフとなで始める。お手手が邪魔で見えにくいけど、腕の隙間から見上げてみたら、シラト様はとっても優しいお顔であたしを見つめていた。
「だから今度はあたしが、雅人おにーさんを守って、助けて……雅人おにーさんがいつだって元気でいられるように、頑張りたい……」
結果的に怖い気持ちさせちゃったり、迷惑かけちゃうことも多いってわかってるけど。でも、傍に居たい……。
「傍にいてもいいように、強く、なりたい……」
そう思ってはいるんだけど全然うまくいかないって分かってるから、あたしの声はちょっとずつ小さくなっていく。まだね、ちっとも堂々といえないの。雅人おにーさんを困らせてることのほうがずっと多いんだもの。
「愛いのう。さくらはその心ひとつで現世に留まっておるのか。それゆえにその魂は真っ白で汚れがないのだなぁ」
いい子いい子、ってシラト様はニコニコしながらまた撫でてくれる。
「あの尊いお方が愛でるも道理。妾も少しだけ、助力してやるとしよう」
シラト様の言葉は難しくって、あたしは首を傾げた。スオーさんが「お前、良かったなぁ」って言ってくれたから、悪いことじゃないとは思うんだけど。
「話せるようになりたいと言ったな」
「な、なりたい! 雅人おにーさんと、すっごくすっごく、お話ししたい!」
だってね、あたし雅人おにーさんに言いたいことがいっぱいあるの。
助けてくれてありがとうって言いたいし、怖がらせて、迷惑かけてごめんなさいも言いたい。お花がキレイね、オンセンってヘンな匂いね、シラト様って優しいね、そんなちょっと思ったことなんかも、ぜーんぶ! お話ししたい。
「おやまぁさくら、そんなにも興奮しては尾が切れてしまうぞ」
シラト様がそんなこと言うから、あたしは自分の尻尾を振り返って見てしまった。だってせっかく尻尾がふたつになったのに、尻尾フリフリしすぎて切れちゃうなんて、そんなのヤだ。
ほっ……良かった、ちゃんとある。
この尻尾をもっと増やして、あたしちゃんと雅人おにーさんの役に立つようになるんだもん。
「さぁ、それでは道を示さねばな。雅人、さくら、近う寄れ」