話してみたいのか?
「おい! おいって!」
白い人……スオーさんがこそこそっとあたしを呼ぶ。
なによう、あたしは『おい』じゃないもん。ツーンとそっぽを向いて無視してやった。あたしには雅人おにーさんがつけてくれた『さくら』って素敵な名前があるんだからね。
「野狐って!」
ヤコでもないもん。
「もー! 頼むからちょっと話聞いてって!」
んもう、しょうがないなぁ。
あたしは耳をピルピルッと動かしてスオーさんの方に向ける。
だってすっごく情けない顔でスオーさんが頼み込んでくるんだもの。仕方なくあたしも話を聞いてあげることにしたんだ。このお社に着いてからずっと、スオーさんゆうべと違っておとなしいもんね。
見ればスオーさんはすっかり困った眉毛になってしまってる。もしかして意地悪し過ぎちゃったかな。ちょっと反省。
「なあに?」
たずねてみたら、スオーさんがすごい勢いで寄ってきた。
「あいつ! あの聡ってヤツ止めてよ! コタカ様がキレたらえらい事になるんだから!」
「止めてって……おしゃべりするなっていうこと? でも、シラト様楽しそうよ? 止めたほうがいいの?」
せっかくニコニコ話してるのに、なんだか止めるのも申し訳なくって聞いてみたら、スオーさんはあたしの耳にこそっと耳打ちする。
「あいつのしゃべり方、馴れ馴れし過ぎなんだよ。シラト様はそーいうのまったく気にしないからいいんだけど、コタカ様はそりゃあもう礼儀作法に厳しいお方だ。今たぶん怒りを全力で堪えてらっしゃる」
「えー!?」
怖い。怒っちゃうの? 雷みたいにドカーン! ってバクハツするの!?
「ほら見ろよ、コタカ様の手。真っ白になるくらい握りしめているだろう? あれは怒りを抑えてるんだよ」
「ホントだ!」
怖い、怖い、聡を早く止めないと!
それでもシラト様と楽しそーにおしゃべりしてる聡に直接言う気にはなれなくて、あたしは雅人おにーさんの足をタシッと押した。
「? どうした、さくら」
「……っ」
そうだった! あたしの言葉って雅人おにーさん達には通じてないんだった! ぐるん!ともう一回後ろを向いて、あたしはスオーさんに訴える。
「スオーさん! あたし人間の言葉は喋れないの!」
「えっ! お前人語ダメなの!? 二尾なのに!?」
そんなびっくりした顔しないでよ……あたしだって雅人おにーさん達とおしゃべりしたかったんだから。
「人間の姿にはなれるようになったけど……言葉はムリだったんだもん……」
悲しくなってしまって、あたしの耳と尻尾はシュンと垂れる。こんな時はふたつもある尻尾が両方しょんぼりしちゃうから、余計に悲しい気持ちになるよね。
「おやまぁ、そんなにしょぼくれて可哀想に。話してみたいのか?」
「!!!!!!」
シラト様がきょとんとした顔でそう訊いてくれるけど……当たり前じゃない!!!!
あたしは全力で何度も何度も何度も何度も頷いた。