石段の先には
彼が指す先には、先が見えないほどの長い長い石段がどーんとそびえている。言うだけ言って、一瞬でその白い人の姿は掻き消えてしまって、改めて人外なんだなぁと思い知った。
「うげぇ、めっちゃ石段じゃねーかよ……」
聡が嘆く気持ちもわかる。確かにどこまで続いてるんだよって軽くつっこみたくなる。登る前からぐったりしそうな超絶長い石段だよな。俺もいやだ。
「まさかこれ登るのか!?」
「地図アプリで見る限りそうだろうな」
無情にも神社の名前で検索した地図アプリのルートは、しっかりとその階段の方向を指していた。げんなりしつつ足元を見ると、さくらがもの言いたげなつぶらな瞳で見上げているのに気が付いた。
「どうした、さくら」
手を伸ばすと俺の胸のあたりめがけてジャンプしてきた。
「うわっ」
慌てて抱っこの態勢に入る。するとさくらは、ピスピスと鼻を鳴らして俺の胸にスリスリとすり寄ってくる。可愛いけど、これって昨日と同じ感じだな。
「あー、ひょっとして怖かったのか、さくらちゃん。アイツ、なんかスゲェ霊力高かったもんなぁ」
「それもあるかもだけど……さくら、もしかしてゆうべ来たのってアイツ?」
そう尋ねると、さくらはすごい勢いで首を縦に振った。
「そっか、やっぱり」
そういえば昨日ひらっと一瞬見えた白い布、あの狩衣だったのかもしれない。さっきの様子だと、なにか悪意があったってわけでもないっぽいんだけどな。
「アイツになんか嫌なことされた?」
聞くとさくらは困ったように首を傾げた。聡が言うように、霊力が高すぎて怖かったっていうことなのかな。なにかを訴えるようにまたピスピスと鼻を鳴らすさくらをよしよしと撫でて、俺はさくらを抱っこしたまま石段に足をかける。
白龍様に頼まれている以上、神社にいかないわけにはいかないしな。さくらが怖がってるみたいだから、抱っこしていくくらいはしてあげよう。
「よし、じゃ行くぞ」
「あーヤだなー。この暑さの中石段登るのかよ、地獄だな」
愚痴る聡と共に黙々と石段を登る。なんせこの暑さだし、結構登っても先が見えない。白龍様の神社の石段だって長いけど、それより絶対に長い長い石段だ。
「あれ……?」
「あ、涼しくなった?」
急に、さわやかな風が吹いた。
温度が一気に下がった気がしたし、木の香りも濃くなって、なにより心地いい風が肌に浮いていた汗を飛ばしてくれるみたいだ。空気が変わった、ひとことで言うとそんな感じだ。
「神域に入ったのかな」
「じゃねーの? 気持ちいいなー!」
なんだか足も軽くなった気がする。「これなら楽勝!」と聡が駆け上がった瞬間、また目の前にふわりと白い布が舞った。
「ラクになったかい? ヒトは弱いからねぇ」
からかうような声が降ってきた。