大丈夫か、さくら
さくらがめちゃめちゃ唸ってる声で目が覚めた。
俺が寝てる時にこんなに騒ぐなんて、部屋に悪いモノがいるって言ってたあの時以来だ。
「さくら……?」
声をかけた途端、目の前でぶわっぶわに膨らんでいた二つのしっぽがびくっと揺れた。暗がりの中で、白い薄布がひらりと舞ったような気がしたけれど、次の瞬間にはただ暗闇が広がっていて、しょんぼりしたさくらがピスピスと鼻を鳴らしてすり寄ってくる。
「大丈夫か、さくら。何かあったのか?」
さくらがこんな風に唸ったり悲しそうにしてるのなんて、何かあったのに決まってる。でも、俺は無事だし聡なんかまだ豪快ないびきかいて寝てるし、きっとさくらが頑張って守ってくれたおかげなんだろう。
「ありがとう、さくら。守ってくれたんだろ?」
よしよしと頭を撫でたら、さくらは気持ちよさそうに目を細めた。二つのしっぽがふりふりと揺れて嬉しそうだ。ちょっとドヤ顔なのがなんともさくららしい。
「ごめんな、白龍様のお守りがあるんだから安心だって思って、俺、なんかちょっと油断してた」
謝ったら、ハッと気が付いたみたいに盛大に首をぶんぶんと横に振りながらなにやら訴えてくるんだけど、残念ながら言葉は通じないんだよな……。お守りのところにちょこんと飛んで、お守りを鼻でツンツンと押してるから、とりあえずお守りを握ってみる。
「お守り? どうしてほしいんだ?」
持ち上げてみたり、さくらに渡そうとしてみたり色々やってみたけど、結局さくらが何を訴えたかったかはわからなかった。ごめんな、さくら。
ついに伝えるのをあきらめたみたいにまたスリスリとすり寄ってきたから、布団をぺらっとめくってみたら嬉しそうにトストスと布団の中に入ってきて、俺の腹のあたりでまあるくなる。
さくらが一緒に寝ようと思えるくらいなら、もう危険はないってことなのかな?
なにかあったんだとしても、撃退できたってことなんだろうと理解して、俺もおとなしく寝ることにした。労いをこめてさくらをよしよしと撫でれば、まんまるの毛玉の中から顔がぴょこんと飛び出てきて、俺の胸のあたりでかわいい耳がぴるぴると揺れる。
ご機嫌みたいだから、まあいいか。
明日は白龍様のお使いをこなすために、件の神社にいかないといけない。俺ももう寝ないと。
っていうか、聡のヤツ結局一瞬たりとも起きなかったな。図太さに感心すればいいのか、危険察知能力のなさを心配するほうがいいのか……。
そんなことを考えているうち、俺はまたいつのまにか眠っていたのだった。