なんか、なんか、スゴイのが来たの!!!
温泉のあったかいお湯のおかげであたしも雅人おにーさんもすごーく癒やされたからなのかな。
なんだかすっごく幸せな気持ち。
毛並みもふんわりフカフカで、体もぽかぽかじんわり温かいから、あたし、おふとんの上でまあるくなって自分の毛並みの柔らかさとおふとんの気持ちよさを楽しみながらぐっすりと寝てたの。
お守りがあるんだもの、安心しきってあたし、ぐっすり寝てたんだ。
なのに。
真夜中になって突然、なんでだかいきなり目が覚めたの。
雅人おにーさんも聡も、ぐーすかいびきかいて気持ちよさそうに寝てるのよ? でもあたし、急に体中の毛並みが全部逆立ったみたいになったの。
怖い。
とても聡たちみたいに眠ってなんか居られない。だって遠くから、なにか大きな、すごく強いものがぐんっ、ぐんっ、って近づいて来る気がするの。
どうしたらいいの。
怖くて怖くて、雅人おにーさんと聡の周りをぐるぐるとまわる。そのあいだにも強い気配はぐんっ、ぐんっ、ってすごい勢いで近づいて来る。
あたしは二人の周りをぐるぐる回るのをやめて、その強い気配がくるほうに向かって精一杯によっつの足を踏ん張って立つ。ふたつのしっぽも、ぶわっと広げて少しでも自分が大きく見えるように。
後ろには二人がいるんだもの。あたしが守らなくてどうするの。
怖くて雅人おにーさんのおふとんの中に潜ってしまいたくなる自分を叱りつけて一生懸命に気持ちをふるいたたせる。そうでもしていないとシッポがしおれて、気持ちまでポキンと折れてしまいそうだった。
ああ、くる。
くる。
くる。
どうしよう。なんか、なんか、スゴイのがくる……!!
ぐんっ、とひときわ近づいた気配は、いっきに目の前にまで近づいた。窓も壁もなんにもないみたいに簡単に、いきなりあたしの鼻先にふわりと白い布が舞う。
次の瞬間にはまん丸のまっかな目が、目の前いっぱいに広がって、あたしはもう面食らってしまった。
なあに、これ、誰!? なんでこんなに顔をくっつけてくるの!?
「あれぇ? やっぱり野狐かぁ? お前、なに?」
「あ、あ、アンタこそ、誰よ」
わけが分からなくって、思わずそう言い返す。真っ白な肌に真っ白な髪、真っ白なカンヌシさんみたいな服を着たその人は、目だけが真っ赤な変わったヒトだった。
「あっ、もしかしてコレかぁ」
「なにすんのよ!!!」
そいつが急に気がそれたようにあたしから目を離して、急に雅人おにーさんのいこうとしたから、あたしは必死でそいつの服に噛みついた。