思いがけない出会い
「あ、しかもここ、神社まである」
ぽそりと、聡が呟いた。
「神社?」
「うん、白龍稲荷神社だって。なんか縁を感じるよな」
確かに。ところは違えど白龍様の命を受けて、仔狐と一緒に旅してる俺たちが、この場所に来たのも何かの縁だ。せっかくだからご挨拶していきたいかも知れない。
「どこにあるんだろうな」
「確かに」
聡と二人してきょろきょろと見回せば、海地獄のマリンブルーの向こうに、赤い鳥居が見えた。
「あれじゃないかな。高いところに鳥居がある」
「ホントだ。行ってみよーぜ!」
「あ、待って。さくらを回収しないと」
他にも観光客がたくさんいる手前、大声でさくらを呼ぶわけにもいかない。
ふわふわシッポをフリフリしながら海地獄とたわむれるさくらにさりげなく近づいて、小さな声で「おいで」と呼べば、さくらはパアッと顔を輝かせて、俺の肩に飛び乗ってきた。
ほんと可愛い。
「ちえー、いいなぁ」
「今度ウメさんにやってもらえ」
「絶対ムリ。ていうか、飛び乗ってくれたとしてもシブシブだし」
「確かに」
面倒くさそうに聡の肩にふわりと飛び乗るウメさんを想像して、笑ってしまった。聡は良くて弟、下手すると下僕くらいにしか思われてないからなぁ。
「ま、いいや。行こうぜ」
「そうだな。せっかくだからご挨拶していこう」
「おう! 旅の安全もしっかりと祈願しねえと」
海地獄から裏手にまわりこむと、落ち着いた雰囲気の階段が目の前に現れる。
思わぬところでお社に出会えたことに、ありがたさを噛みしめながらゆっくりと歩いていけば、肩の上でさくらが嬉しそうにしっぽをふる。
ああ、さくらも嬉しいのか。
社の前で聡とともに丁寧に柏手を打ち、深々と礼をして、この土地を訪れ御前に伺うことができたことに感謝する。
なぜかそれだけで、とても落ち着いた気持ちになるから不思議だ。
「あ……」
なんだろう。暖かいような、それなのに不思議と爽やかな空気が俺たちを包む。
まるで海地獄みたいだ。海のようなマリンブルーなのに、蒸気がもうもうと立ちこめる、この土地ならではの空気なのかも知れない。
なんだか力を分けて貰ったような気持ちになって、ありがたくて俺はまたしっかりと頭を下げる。
俺の肩から飛び降りたさくらも、嬉しそうにのびをした。
「おー、さくらも嬉しそうだな! 来て良かった」
「そうだな、聡。ありがとう」
きっと聡がいなかったら、この場所にくることはなかったと思う。俺にとっては予想外の、ありがたい出会いだ。
素直にお礼を言ったら、聡はちょっと照れくさそうに笑った。
「へへ、幸先いいよなぁ。なんかこれで明日も、無事に目的地に着けそうだな!」