連れ回されて着いた先には
血の池地獄で足湯に入って、思いのほかしっかり疲れが取れたと思ったのもつかの間。
その後の俺とさくらは、聡に思いっきり連れ回されて、若干疲れ初めていた。いや、だって別府ってすごい数の地獄があるんだよ。
温泉地に間欠泉が湧いてしまうという悪魔的コラボで誕生した『竜巻地獄』なんか、真面目に地獄じゃないかと思ったよ。なんせ100度をこえる熱湯が何十メートルも吹き上げて、湯気がもうもうと立ち込めるわけだから、地味に怖いし。
泥がボコボコと沸き立って坊主頭に見える、なんていうなかなか怖い命名をされている坊主地獄だとか、ワニがわんさかいるせいで、さくらが猛烈に怖がって全身の毛を逆立てたから一瞬で出てくるはめになった鬼山地獄だとか……聡がツアコンよろしくガイドマップで色々調べて連れて行くままに、いくつもの地獄を巡っていく。
温泉地というほんわかあったか癒しの象徴みたいな場所で『地獄』だなんて、どういうことだと思ったけど、こんなのが自然に、しかも集中してあったら、そりゃあ昔の人『地獄』だと思っただろうなぁ。
「おっしゃあ! じゃあ、今日の地獄めぐりのラスト! オレ的おススメ『海地獄』に行ってみよーか!」
全力で楽しんでいる聡の号令で、俺たちはその日最後の地獄となるらしい『海地獄』へと足を向けることになった。
門を入った途端に、知らず息を飲む。
「うお、すっげぇ!!!! マジで海みてぇ」
聡のテンションがあがるのも分かる。眼前には、大きなコバルトブルーが広がっていた。
「綺麗だ……」
「だな! 海の中でも南国系の、めっちゃ綺麗な海だよな!」
池なんて表現するのが申し訳ないような大きさのコバルトブルーは、一瞬熱さも忘れるくらいに綺麗で、ついつい見惚れてしまう。
ああでも、やっぱり温泉なんだな、もうもうと湯気があがってるし。
「うっわ、温度、98度もあるんだってよ! こんなキレイな色して熱湯じゃねーか」
「あ、やっぱ熱湯なんだ」
「触るなよ」
「触んねーよ、お前じゃあるまいし。な、さくら」
そう言って足元を見たら、いつの間にか姿がない。慌ててキョロキョロとあたりを見渡したら、お湯をチョイチョイと掻くマネをしてみたり、湯気にとびついてみたりと、一人で海地獄を満喫しているモフモフの姿が見えた。
まあ、霊体だからな……やけどすることもないだろう。
「うっわ、桜ちゃん、いいなあ。楽しそー!」
「だな、ホントはちょっと触ってみたいもんな」
「そんなアナタにオススメ、実はここにも足湯があるらしいぜ」
「聡、マジで足湯好きだな」
「なんとここには、子供が乗れるサイズのでかい蓮の池やら、プチ血の池っぽいのやら、プリンやらまんじゅうやら色々ある」
聡がネットでさくっと調べたらしく、続々と情報を付加してくる。
そもそも海地獄に関係ないっぽいのが目白押しなんだが、どうなってんだ、海地獄。