こんな旅もいいのかも知れない
聡があまりにも観光モードなもんだから、最初はちょっとヒいた俺だったけど、聡オススメのとり天とやらを食べ始めた頃には『こんな旅もいいかな』と思い始めていた。
なんせ、俺がとり天を口に運ぶたび、さくらがめちゃくちゃ嬉しそうにしっぽをふさっ、ふさっと揺らすんだ。そんな幸せそうな姿を見られるなら、ちょっとの寄り道もいいんじゃないかと思えてきた。
俺のことだから聡がいなかったらきっと、もっと気が急いてしまって昼飯もそこそこに神社に行っていたことだろうと思う。神主さんにもそんなに急がなくていいと言われてたんだから、これくらい楽しみながらでもきっといいんだろう。
ひとくちで喰うには大きいとり天を大口あけて噛みしめれば、アツアツの衣の中は思いのほか柔らかくて、鶏肉のうまみが詰まっている。
肉の線維がほろりとほどけて、口の中にうまみが広がって……さくらのしっぽも嬉しそうに揺れた。
その姿がかわいくて、思わずその小さな頭を撫でる。
「ありがとうな、聡」
「ん? なにが?」
「いや、俺だけだったら、さくらもこんなに喜ばなかったな、と思ってさ」
言ったとたん、聡の顔がぱあっと明るくなった。
「そう? やっぱそうか?」
あまりにも素直な感情表現に、思わず吹いた。こいつ、こんなに感情表現豊かなヤツだったっけ。
「いやー、良かった! 無理言ってついてきた甲斐があった。お前このところ塞いでたからな、ちょっとは遊ばねえとカビが生えると思ってよ」
思いもかけないことを言われて、一瞬動きが止まってしまった。聡がさっきからあっち行こうこっち行こうって観光系のことばっか言ってたのは、俺を気遣ってのことだったのか。
「ばーちゃんも心配してたぜ。今回の旅で、霊力も安定するといいな!」
「……おう、そうだな」
「そしたらさ、一緒にでっかいヤマにチャレンジしようぜ!」
にかっと聡が笑えば、俺と聡のあいだにさくらもモフッと飛び込んでくる。まるで「あたしも!」言わんばかりの行動に、俺と聡は顔を見合わせて笑った。
「だな! さくらちゃんも一緒に!」
頷いて、また一緒になって笑う。
ああ、なんだかこんなに笑ったの、久しぶりかもしれない。聡の言う通り、俺はずいぶんと塞ぎ込んでいたらしい。
「んじゃー、雅人も復活したことだし、メシ食い終わったら地獄巡りな! なんか色とりどりっつーか、変わり種の温泉がぼこぼこあるらしーぜ」
「……」
「温泉プリンとかも食いてーなー。あ、あと『やせうま』っつーのも面白そう。甘味系もなかなか充実してるなぁ」
いや、やっぱり単に観光したいだけかも知れない。
三年前、初めて小説系で嬉しいお知らせをいただいたのが、大分旅行時のホテルでした。桜が満開で、とっても綺麗だったのを思い出しました(^^)