一路、大分へ
"その週末。
白龍様と神主さんのご厚意で、旅費までしっかりいただいて、俺たちは大分へと旅だった。
新幹線に乗り込んで席に着いてしまえば、あとはまったりゆっくり、気楽な旅だ。
「雅人! ほいコレ」
「あ、サンキュ」
思いの外準備のいい聡は、いつのまにか俺の分まで飲み物をゲットしていたらしい。俺がよく飲んでいる定番のお茶を選んでいるあたり、抜かりがない。
こいつってホント、こういうところ気が利くんだよなぁ。百合香さんにきたえられてるんだろうか。
「予定じゃ確か、昼過ぎには着くんだよな。結構あちこち回れそうじゃん?」
持ってきたらしいガイドブックをペラペラとめくりながら、聡は至極楽しそうだ。ページのあちこちから可愛いネコの付箋が飛び出しているところをみるに、既に充分に予習済みなんだろう。
「お前、気持ちがほぼ観光オンリーだな」
「せっかく大分まで行くんだから、観光もしっかりしとかないと損じゃん」
「このくそ暑いのに元気だな」
俺なんか駅のホームの暑さにすっかりやられて、早くもダウン気味だ。しかもこれからもっと南の、多分さらに暑いだろう地に向かうというのに、こいつの元気分けて欲しい。
「ついたらまずはメシだよな! えーと、別府駅で降りるんだよな。この辺、とり天が名物なんだってよ!」
「とりてんってなんだ? あんま聞いたことねえけど」
「鶏の唐揚げならぬ、鶏の天ぷらなんだってさ。食ってみねえ?」
目の端で、急にふわりと淡い黄色が揺れた。ついそっちに目をやれば、さくらのしっぽが嬉しそうにふわっ、ふわっと揺れている。跳ねるようなうきうきした尻尾の動きにこっちまで楽しくなってさくらの顔を見てみたら、バチッと目が合った。
すげぇ、つぶらなまんまるの瞳がキラッキラしてる。
さくらは俺の顔を見あげては、「見て見て!」とでも言いたげに、たしっ、たしっと譲の観光ガイドブックを叩いている。
「だよなっ! とり天うまそうだよな!」
「やめて、二人してよだれ垂らしそうな顔やめて」
ああもう、しょうがねえなあ。そりゃあ、さくらは狐だもんな。鶏肉はそりゃあ美味しそうに見えるだろう。俺が食べれば、なんとさくらにも味が感じ取れるらしいし、さくらのためにも『とりてん』とやらを食べてみるか。
「分かった分かった、昼飯はとりてんを食おう」
「いえーい!」
ガッツポーズの聡の横で、さくらがぴょんぴょん飛び跳ねている。こんなに喜んでくれるなら、とりてんくらいいくらでも食べてやる。
「ただ聡、観光もいいけど、今回の旅の目的はコレなんだからな。忘れるなよ」
俺は自分の首からかけてある、預かり物のお守りをそっと触った。"
第七回ネット小説大賞の一次に、この『小狐さくら、九尾を目指す』が通ってましたー(^^)
さくらちゃん、二次も頑張ってくれるといいなぁ。