【神主さん視点】応援したくなる二人
「ただ、その代わりにちょっとお使いを頼まれてほしいそうですが」
私がそう告げた途端、明らかに雅人くんの顔が強張る。きっと、とんでもない要求をされると心配しているのだろう。思わず笑ってしまった。
「大丈夫ですよ、そう警戒しなくても」
安心してもらえるように、できるだけ柔らかい笑みを浮かべて、私は自分の袂に手を入れる。指先にあたったお守りを取り出して、雅人くんに手渡した。お守りからは強烈な神気が漂っている。
「このお守りを、大分のとある神社まで持っていって欲しいそうです」
「それだけ?」
「ええ、それだけです。もちろんちゃんと旅費も出しますよ。ただ、目的地の神社に到着するまで、このお守りを肌身離さず持っていないとなりませんが」
「それは別に……小さいし」
ホッとしたように雅人くんが頷く。小さくてもこのお守りに込められた神気はとても強大だから、きっと道中、雅人くんを守ってくれるだろう。
「大学は大丈夫ですか?」
「一日、二日くらいなら別に。これまでそんなに休んでないし。なんなら土日でも行けるくらいですし」
「なら、良かった。あちらの神社の神気が少し落ちてきたようで、このお守りにこめられた神気をお届けするのがお仕事なんですよ」
「すげえ、神様っぽい。神様のおつかいで大分まで旅行って、なんかスゴイっすね」
ようやく雅人くんに笑顔が戻る。
確かに大分までだなんて、ちょっとした旅行だ。なんなら私が行きたいくらいだけれど、白龍様によると、雅人くんがこのお守りを身に着けて、その神社までいくことが重要なんだそうだ。
道中ずっと強大な神気を身にまとうことで、今は乱れている雅人君の力も整えられるうえ、これから雅人くんたちがむかうのは白龍様と稲荷を両方祀っている神社だ。
さくらちゃんの顔をつなぐにもちょうどいいらしい。
「でも俺、このとこずっと家にこもってばっかりだったから、嬉しいかも」
嬉しそうに破顔して、それから雅人くんはハッとしたように、自分の足の近くに丸まっているさくらちゃんを見る。
「さくらは、それでいいか?」
必ずさくらちゃんの意思も尊重しようとする雅人くんは、本当に優しい。
バッと立ち上がって、嬉しそうに雅人くんの周りを跳ね回り、嬉しいという気持ちを目いっぱいアピールするさくらちゃんも可愛いし。本当に応援したくなる二人だ。
だからこそ白龍様もいつになく、こうして頻繁に面倒を見てあげているのだろう。
すっかり行く気満々になったらしい二人に、私は念のため助言する。
「でも、百合香さんにはひとこと報告してから出発したほうがいいでしょうね」
あとで二人が百合香さんに怒られる羽目になったら、かわいそうですからね。