雅人おにーさん、どうしたの?
どうしよう。
雅人おにーさんが、ずっとションボリしてるの。
聡のおうちから帰ってきてから、ため息ばっかりついてるの。テレビからは楽しそうな笑い声が聞こえてくるのに、雅人おにーさんはちっとも楽しそうじゃない。
ねえ、どうしたの? もしかして聡にイジワル言われたの?
心配で、雅人おにーさんの胡座の中に飛び乗った。
うーんと体を伸ばして、雅人おにーさんのお腹に体をこすりつける。こんな時、なぐさめる事でも言えればいいのに。
「さくら」
あたしに気づいた雅人おにーさんが、優しい目で見下ろしてくれた。大きなあったかい手が、あたしの体にゆっくりと降りてくる。
「ごめん、心配かけちゃったんだな」
モフモフと両手であたしの顔を挟むようにして撫でてくれる手は、いつもみたいにとっても優しい。
気持ち良くってあたしの尻尾は右へ左へユラユラ揺れる。
あああ〜〜〜……極楽……。
じゃない!
ウットリしてる場合じゃなかった!
あたしじゃなくって、雅人おにーさんを元気にしたいのに!
一生懸命に見上げたら、雅人おにーさんは困ったみたいに眉毛を下げて、小さく笑い声をもらした。
「大丈夫だよ、さくら。そんなに心配そうな顔しないで。ちょっと自己嫌悪なだけ」
ジコケンオ?
よく分かんないけど、雅人おにーさんをいじめるヤツは、ちゃんとあたしがぶっ飛ばしてあげるから!
そう息巻いてはみるけれど、雅人おにーさんを苦しめてるヤツがなんなのか、分かんないことには噛みつきようもないんだよ。
ねえ、雅人おにーさん、あたし何と戦えばいいの?
困って小首を傾げたら、雅人おにーさんはあたしを抱っこしたまま、ごろんと仰向けに寝っ転がる。
そのまま背中をふわふわ撫でてくれながら、雅人おにーさんは小さな声で呟いた。
「なあ、さくら。俺、百合香さんに呆れられちゃったよ」
あたしに話しかけてるみたいなのに、どうしてか独り言みたいにも聞こえる、とっても寂しそうな声。聡じゃなくて、百合香おばーちゃんに叱られて、そんなにションボリしているの?
「しばらくは仕事もさせられないって。俺が無茶したせいで……ごめんな、さくら」
えっ! あたしがぐーすか寝てる間に、そんな話になっちゃってたの!?
あの優しい百合香おばーちゃんが、そんなに怒るだなんて。
驚きでポカンとしちゃったあたしの耳に、いきなり玄関のピンポンが鳴る音が響いてきて、あたしは思わず軽く飛び上がってしまった。
もう、いったい誰なの。今、大事なお話してるとこなのに!