叱られました。
「ああ、驚くほど綺麗に上がっちまってる。浄霊としちゃ上出来だ」
「良かった……」
「……分かっちゃいないね」
ホッと息をつく俺の手のひらを、百合香さんはゴリゴリと音がするくらい強く揉んだ。
「痛えっ!?」
「これでも随分と勘弁してやってる方さ。なんせ倒れたばっかりだからね」
「そうだぞ、雅人! 俺だったら夕飯抜かれた上に掃除・洗濯・皿洗いの刑だ、多分!」
「小遣いも抜きだね」
「ひどい!」
「冗談はさておき」
百合香さんは、急に真面目な顔で俺を見下ろした。
「雅人、あれはね。あんた如きの霊力で上がるような霊体じゃなかった。死ぬつもりかい?」
「え……」
「やっぱり分かって無かったんだね。今回はね、たまたまだ。たまたま上手くいったんだよ。さくらちゃんがあの仔猫と同じように事故で死んだ霊体で……雅人があの女の子と同じように、それを悲しみ労わる心があったから。共鳴して、たまたま上手くいったんだ」
「共鳴……」
「その場の同情で投げ捨てられるほど、あんたの命は軽いのかい?」
百合香さんの問いに、ウッと喉が詰まった。
「違うだろう? 雅人が死ねば、親御さんはどうなる。さくらちゃんは? ウチの聡だってもちろん私だって、嘆かない筈がないだろう。今回はね、ウメが見ててくれたから命を落とさないギリギリのところで判断出来た。でもね、一歩間違えばどうなったか分からないくらいに、危険だったんだ」
ウメさんは縁側の座布団の上でこちらをチラリと見てから、興味が無さそうにノビをしている。ウメさんにも、随分と迷惑をかけてしまっていたんだと、初めて気付いた。
面目なくて、もう畳をじっと見るしかない。
「さらに悪いのは、雅人にそれだけの覚悟が無かったってことさ。相手の力量も読み切れず、自分が死ぬかもしれないなんて考えもせずに、ただ突っ走る。迷惑な話だよ」
「ば、ばーちゃん、その辺にしてやってよ。雅人も反省してるって! 俺からもビシッと言っとくし!」
「おだまり」
あまりにも重い雰囲気に、聡が取りなそうとしてくれたけど、百合香さんに一括されて二人してシュンと俯いた。ごめんな、聡。どう考えても、俺が全面的に悪い。
「いいかい? 雅人が浄化の半ばで死んだらもちろん依頼は完遂できないし、その上さくらちゃんにだって危険が及ぶ」
一見怒っているように見えるけど、百合香さんの目はとても悲しそうな色をしていた。眉間に深く刻まれた皺が感情を抑え込んでいるように見えて、俺はますます申し訳なくなってしまう。
「確かに結果的には霊体は浄化できた……依頼はこなせたよ。ただね、そんな博打みたいな仕事をする人間に、安心して次を任せられると思うかい? しばらく雅人には、仕事は任せないからね」
「は……い」
返す言葉も無い。百合香さんの言ってる事はどう考えても正しかった。
「まあ、物理的にも暫くは休養が必要だ。ちょっと落ち着いて、ゆっくり考えてごらん」
俺の頭をふわりと撫でた百合香さんの手は思いのほか優しくて、俺はちょっとだけ涙ぐんでしまった。