誰か、雅人おにーさんを助けて……!
あたし、一生懸命に雅人おにーさんを止めたのよ?
でも、あたしの声は雅人おにーさんには聞こえなくて。ジーンズの裾を噛んでみたり、間に立ちはだかろうとしてみたり、あたしなりに凄く頑張ったけど、雅人おにーさんはどうしても止めてくれないの。
「ごめんな、さくら」
そう言って、あたしがどんなにすがっても浄化の手を緩めない。
でも、顔が青くなってきてる。
額にじわじわ汗が浮かんできてるよ? それって、脂汗っていうんじゃないの? ねえ、手がぶるぶる震えてきたよ。
心配で心配で。
雅人おにーさんの足元をうろうろとうろついてはしっぽでファサ、ファサと足を撫でる。もう足までぶるぶる震えて、今にも膝をつきそうなほど疲れちゃっている雅人おにーさんの体を、ちょっとでもいたわってあげたかった。
女の子と子猫ちゃんが、キラキラの綺麗な光になってお空に登っていくまで、結局雅人おにーさんは浄化をやめなかった。
キラキラ。
キラキラ。
空気に溶けるみたいに薄く白くなっていく女の子たち。子猫ちゃんもにゃーって小さく鳴いて、気持ちよさそうに伸びをして逝ってしまった。
女の子の体が空気に溶けて消えた瞬間、雅人おにーさんの体がガクンとくずおれる。
膝をついたと思ったら、雅人おにーさんはそのままアスファルトの道路に倒れ伏してしまった。
「ごめん、さくら。ちょっと疲れたみたいだ」
当たり前だよ、だから止めたのに!
どうしたらいいか分からなくって、真っ青を通り越して既に土みたいな色してる雅人おにーさんの顔を一生懸命に舐めた。
昔ママが、あたしがケガしたとき、こうやって舐めてくれたの。具合が悪い時も、気持ちが悪い時も、こうして舐めてくれたら幸せな気持ちになれたから。
「はは……ありがと、さくら……でもちょっとだけ、寝かせてくれ」
土みたいな色のまま、雅人おにーさんがゆっくりと瞳を閉じる。
どうしよう、雅人おにーさんが冷たいの。
ウメさんもいなくなっちゃって、こんな小さな仔狐の体じゃ、引っ張ることもできない。せめてあたしに人間みたいな手があれば、引っ張ることだって、おんぶすることだってできるのに。
そう思って、ハッとした。
……なれるじゃん!
あたし、人間の形になれるんだった!
一生懸命に霊気を練りこんで、ヒトの形をとる。さらにさらに霊気を練りこんで、あたしはその体を強くした。雅人おにーさんを引っ張るなら、姿がそう見えるだけじゃ話にならない。物理的に触れるようにならないと。
あたしだってかなり霊力をつかっちゃうけど、この際雅人おにーさんが助かるなら、それでいいもの。
雅人おにーさんに触れようとしたその時だった。道の角を曲がって、猛烈な勢いで誰か走ってくるのが見える。
「雅人! さくらちゃん! 無事か!?」