あったかくしてあげる
「そうか、辛かったね。よく頑張った」
雅人おにーさんの声が優しい。
そうだよね……。だってもう、あたしにだってあの子たちが黒い気持ち悪いうねうねになんて見えない。
ケガした仔猫と、それを心配そうにだきあげてる小さな女の子だと思うと、なんかもう攻撃する気になんかなれないもんね。
「仔猫、あっためてあげたいんだよね?」
雅人おにさんの問いかけに、女の子は目に涙をいっぱい溜めたままコクン、と小さく頷いた。
「わかった、あっためてあげるから、じっとしてて」
優しく、優しく、雅人おにーさんが語り掛ける。そしてその体からゆっくりと浄化の温かい光が仔猫に向けて放たれた。
さっきまでの厳しい白い光じゃない。
包み込むような、ママみたいにふんわりした光よ。
「チビちゃん……白く、なってく」
「そうだね、光、あったかいだろ?」
「うん……」
不思議。
女の子も気持ちよさそうに目を閉じて、光を浴びている。仔猫もとっても気持ちよさそう。まるで日向ぼっこしてるみたいにゴロゴロと喉を鳴らして、女の子の腕の中で軽く伸びをした。
にゃーん……
って、小さく鳴き声も聞こえて、初めてこの仔猫がリラックスした顔を見せている。
もう、「痛い」も「悲しい」も聞こえてこないね。
「近寄らないで」って、拒絶するみたいな感情も伝わってこないの。
ねえ。少しは痛いの、なくなったのかな。
「おやおや、本気で浄化するつもりかえ。難儀なこった」
ウメさんが、あきれたみたいな声をだす。
だって、ほっとけないじゃない。あたしは雅人おにーさんに賛成よ?
そう言ったら、ウメさんはふんっと盛大に鼻を鳴らす。
「バカだねえ、雅人ときたらこの浄化が終わったらどうせ倒れちまうだろうさ」
「えっ!?」
「しばらくは修行だってできるかどうか。力もないくせに無理するからさ」
なんで、どうしてそんな事になるの!?
ウメさんはなんか苛立たし気にしっぽをビタン、ビタン、と振るくらいに怒っちゃってるけど、あたしには意味がわからなくってウメさんに必死で問いかけた。
だって、雅人おにーさんが倒れちゃうだなんて、そんなの嫌だ。
「なぜかって? 決まってるじゃないか。あんなに穢れた魂を導く程の浄化なんて、どんだけ力を使うか。雅人ごときの力でやろうなんざ身の程をしらないんだよ!」
お髭もぐんっと前に出て、お耳はぴんっと後ろに向いてしまっている。
大変に怒っていらっしゃる……!
そしてそのままぷいっと塀の上を歩いて行ってしまった。どうしよう、雅人おにーさんが倒れそうだっていうのにウメさんまでいなくなっちゃったら、あたし、どうしたらいいか。
ヒト型にはなれるようになったけど、だって実体はないんだもん。引きずって帰るわけにもいかないよ。
おにーさん。
雅人おにーさんを、止めなくちゃ。