守りたいもの
どうやら、さくらにも漸く仔猫を必死で抱きしめる、小さな女の子が見えたらしい。
俺はホッと息をついた。
困惑した様子で動きが止まり、さくらのフサフサ尻尾と三角耳がへにゃりと垂れた。俺の顔を見ちゃあ女の子を見る、という動きを繰り返して、不安そうに前足はしっかりと俺の腕を掴んでいる。
そのまんまるでつぶらな瞳が「どうして? これがあのウネウネなの?」とでも言いたげに、俺を見上げていた。
うん、俺もびっくりしたよ。この子と話が出来れば詳しい事情もわかるんだけどね。
俺はしっかりとさくらを抱き上げたまま、また一歩前に出た。
「来ないでって言ってるじゃない!」
途端に女の子の髪の毛が、激しく揺らめいて威嚇してくる。
蹲ったまま仔猫をしっかりと庇っている女の子は、ギラギラとした目で俺たちを睨みつけてくる。名前を聞いても、歳を聞いても、睨みつけてくるだけで何も答えてくれない。
出てくる言葉は「来ないで」だけだ。
「参ったな、話が通じない」
「当たり前だろう? 簡単に話が通じるくらいなら、悪霊になったりしないからねえ」
ウメさんは飽きたみたいに、顔を洗い始めてしまった。
「今は雅人の浄化であの姿を保っちゃいるが、放っておいたらすぐにあの気味の悪い姿に逆戻りさね」
「……」
「下手な情けはかけるもんじゃない、あれだけ頑なだと浄化も骨が折れる。一思いに滅してしておやり」
でも、あの子、あんなに必死で仔猫を守ってる。
俺が車に轢かれたさくらを守りたかったみたいに、あの子もあの仔猫を守りたいだけじゃないのか。
あんなにちっちゃな癖に、あんなに必死に。
「さくら、滅するのはお前の仕事だろう」
ウメさんが一言そう言うと、さくらの耳がピーン! と立った。
「待って! 待ってくれ、さくら!」
俺は慌ててさくらを抱く手に力を入れる。ジタバタと暴れるさくらを、しっかりと抱き締めて俺は声を張り上げた。
「仔猫……その仔猫、ケガでもしてるのか?」
その言葉を聞いた途端、急に女の子の顔がクシャッと歪む。
「死にそう、なの」
初めて、来ないで以外の言葉が女の子の口から溢れでた。
やっぱり。女の子本人の事じゃなく、仔猫の事なら答えてくれる気がしたんだ。
あんなに必死になって守っている仔猫。この子にとって、今大事なのは自分じゃなくてこの小さな仔猫だったんだろう。
俺だって、さくらが死にかけてる時に名前だの歳だの聞かれても、それどころじゃねえって答える筈だ。
この女の子は今、きっとその瞬間で時が止まってる。




