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霊気と瘴気

攻めあぐねてるっぽいさくらが足元でスリスリするから怖くなったのかと思って抱き上げたら、頭と尻尾をブンブン音がするくらい全力で振って否定された。


とすると。



「あ、霊気か!」



正解らしい。花が飛びそうなくらいパアッと嬉しそうなオーラが満ちる。耳も尻尾もピンっと立って可愛いんだよな、ホント。


おっと、なごんでる場合じゃなかった。あの黒髪の悪霊があの場所から動かないからいいようなものの、本来戦闘中に意思の疎通が今一つだったりすると命に係わるんだよな。


さくらの背中に手を当てて、霊気を送り込みながら考える。


合図を決めたほうがいいかもしれない。



「さくら、霊気がほしい時は尻尾を大きく振ってくれ。そしたら、遠くにいても必ず届ける」



実際、直接こうして手を当てて送り込んだほうが素早くより多く質の高い霊気を受け渡せるけれど、霊気を飛ばす修行だってやってきた。コントロールにだってそれなりの自信はあるんだ。


俺の意思を理解したらしいさくらは、俺をしっかりと見つめた後、身を翻して黒髪の悪霊に向かっていった。


さくらの体からは溢れそうなほどの眩い霊気が満ちている。小さな体が一回りも二回りも大きく見えて、急に頼もしく見えるから不思議なもんだ。


安心感を持って見守れば、さくらはひらりひらりとヤツの腕を躱しながら悪霊に近づいていく。


一番威力があるのは直接霊気を流し込む方法だ。でも今のさくらなら、若干の距離があっても十分に有効打になるような攻撃ができるだろう。


そう思って固唾をのんで見守っていた時だ。


さくらの口から、眩い光の塊が飛び出した。



「グギャァァァァッ!」



耳を覆いたくなるような金切り声と共に、腕が、黒髪が撒き散らされていく。


ボトボトボトッと嫌な音を立てて落ちた肉片や髪の束が、ジュウジュウと焼けるような音とにおいを撒き散らしながら蒸発し、あたりには嫌な気が充満した。


なんだこれは。


確かに本体のパワーは格段に落ちた。


でも、この蒸発した気が充満した空間は、異様なほど瘴気に満ちている。


さっきの女の人がふらふらしながらでも、この場を離れてくれていてよかった。こんな濃い瘴気にあたったら、たとえ健康な人でも吐き気やめまいを覚えるだろう、そんな濃い瘴気だった。


動かないから楽勝だろうと思っていたら、こんな隠し玉があったとは。


放っておくと周囲の良くない気や霊まで呼び寄せてしまいかねない。なんせそんな気は意外なほどどこにだってあって、似た性質のものは集まりやすいという特性があるからだ。



「雅人」



大丈夫、ウメさん。わかってるよ。


この瘴気を何とかするのは俺の仕事だって言いたいんだろう?


俺は、忍ばせていた経典を素早く取り出し、勾玉を握りしめる。


祝詞がよどみなく口から溢れ、自分の体の中の霊気が一気に高まっていくのを俺は感じていた。

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