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見守るのもハラハラする

ハラハラする。


自分で戦った方がマシだってくらい胃が痛い。


小さな体をヒラリヒラリと動かして蠢めく腕を逃れていくさくら。さすがにウメさんの特訓を受けて身のこなしは格段に上がったと思ってたんだけど、なぜか急に若干動きが鈍ったさくらを腕がかすめた。


途端にさくらが大きく飛び退く。


弾かれるように遠くまで飛び退いたさくらは背中の毛を逆立てて唸り声を上げ始めた。



どうしたんだ、さくら。



さっきあの気味悪い腕がさくらに触れてから、さらに慎重な動きになった気がする。腕が届かない距離で油断なく相手の動きを見ながらウロウロと動くさくらは、どう見ても攻めあぐねているようだった。



「動くんじゃないよ」



俺の心の焦りを感じとったのか、ウメさんに釘をさされてしまった。



「まだ始まったばかりだ、さくらを信じておやり」



一見、線路沿いの家の塀に平和そうに寝そべっているみたいに見えるウメさんだったけど、その瞳はまっすぐにさくらの戦いを見ていた。



そうだな、ウメさん。


ずっとさくらを特訓してきたウメさんがそう言うんだ、俺もさくらを信じて黙って見守ろう。


そう思って、俺もウメさんが寝そべる塀に背中をつけて見守る体勢になった時だった。



偶然、その道を通りかかる人がいた。


買い物帰りだろうか、買い物袋を重そうに下げた女の人があの腕をウネウネと蠢めかせる黒髪の塊のごくちかくを通り過ぎようとしている。


やっぱりアレだな、普通のひとにはあの気持ち悪いの見えてないんだな、あんな近くを通り過ぎようなんて。


ちょっと前までの俺だって同じだったんだろうけど、今となっては何も知らずに魔物と言っても差し支えないような塊の真横を通り過ぎようというその行為は勇者のように見える。



すげーなあ。



ぼんやりそんな事を思っていたんだが。



その女の人がちょうど通り過ぎようとしたその瞬間に、あの枯れたみたいな腕がいきなり一斉に女の人に襲いかかった。


たくさんの腕に襲われて、女の人がフラッと急によろめいた。



ふらふらと危なっかしい足取りのまま、一気に青ざめたその女の人はそれでもゆっくりと歩を進める。



「!!」



その時。


さくらが、女の人を掴んでいる腕に飛びかかり、思いっきり噛み付いた。


その噛み付いた部分から閃光が迸り、黒髪の塊から表現しがたい絶叫が放たれる。噛み付かれた部分はまるで焼けたかのようにジュウジュウと音を立て、辺りには黒髪が燃えるような嫌な臭いと煙が立ち上る。


確実にさくらの攻撃は相手に大きなダメージを与えたみたいだ。


腕から解放された女の人は、そのままふらふらとさらに数歩を歩きゆっくりと座り込んだ。



「だ、大丈夫ですか」



思わず女の人に声をかける。あんな腕に絡みつかれて、大丈夫なのかつい心配になってしまったからだ。

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