初めての戦いは
「ここ?」
「そうさね、さすがに家の中に巣食ってるやつは信用がまだないあんたらにはキツいからね」
ウメさんにズバッと言われて、思わず苦笑が漏れる。まあ、ウメさんには保護者がわりについてきて貰ってる身だ、何と言われてもまだまだ反論できる身分じゃない。頑張って実績を上げていけば、ウメさんにももうちょっと優しくして貰えるかもしないけど。
俺たちが今立っているのは、ほんとうにどこにでもある踏切の前だ。踏切を突っ切る道と線路沿いに走る道が、踏切前で交差するそんな場所。
なんでも、この踏切と線路沿いの道路の双方で相次いで大小様々な事故が発生し、しかも事故にあった遺体やはね飛ばされた物が必ずある地点に落ちるんだと。怖すぎないか、それ。
……と考えていた時、ごく自然に視線があるポイントに吸い寄せられた。
うわ。
なんか見た目エゲツないのいるわ。
黒髪の、化け物。バサバサの黒い髪がうじゃうじゃと蠢いて、そのきみ悪い塊から細い木の根っこみたいに茶色い干からびたみたいな腕だけが何本も何本も飛び出している。そしてその腕は何かを探すように絶えず空を彷徨っていた。
この黒く淀み切った気配、完全なる悪霊だ。
じっくりと見ていたせいか向こうもこちらに気付いたらしく、黒髪の塊から、鈍い光を放つ目がギョロリとこちらを睨んだ。
「フーーーーーッ」
さくらが全身の毛を逆立てて、四肢を踏ん張って威嚇している。
可愛いけど、フーーーーーッて……猫か。
ウメさんに師事してから、時々動きが猫っぽくなってて、影響受けまくりなのが面白いんだけど。
「よし、やるか」
この世の霊には幾つも段階があるらしく、まだ生前の姿や思いを宿す霊ならまずは彼らの要望や願いを叶えたり説得したりすることで成仏を目指す。
それが長く現世にとどまるうちに、ごく一部の霊は悪霊への階段を登り始める。この踏切の悪霊は、そうした霊のひとつなんだろう。もはや周囲の澱んだ気を取り込んで大きく成長した悪霊は、自ら獲物を呼び込むほどまでに成長してしまった。
こうなってしまうと、浄化するレベルじゃない。
今必要なのは、力任せに退治することだけだ。
「雅人、あんたはまだ手を出すんじゃないよ、まずはさくらの力試しだ」
ええ!?
俺の出番なし!?
がっかりする暇もなく、ウメさんの言葉と同時にさくらの小さな体が弾丸みたいに飛んで行った。
黒髪の化け物の手前で大きく跳躍したさくらは、空をうろつく枯れ枝のような腕のひとつに噛み付いた。
凄まじい声を上げながら、それでも無数の腕がさくらを捉えようと激しく蠢めく。悪霊は、まだまださほどのダメージを受けていないようだった。