霊力の循環
地獄の滝修行が終わって修行着のまま湯船に入れられた俺は、必死で霊力の循環を感じようとしていた。
湯に入った途端、冷え切った体がジーンとあったかくなって、生き返るってこの事かって心底思ったわけだが。目を閉じて暖かさを堪能していたら、早速百合香さんの檄が飛ぶ。
「こら!ただ浸かってるんじゃないよ、霊力の循環を感じるんだ!」
霊力の循環って言われても、ジンジンと体を巡る血流しか感じられないんだけど。それでも血流以外になんか巡ってる感じがしないかと真剣に意識を向けてはみたものの、ぶっちゃけ全然わからない。
さっきまでは凍えて死ぬんじゃないかと思ったけど、このまま行くとのぼせちゃうんじゃなかろうか。
しばらくそうしてな、と百合香さんにも放置され、一人寂しく霊力の巡りを探しながらお湯に浸かっていたら、屋敷の奥からドタドタと慌てたような足音が聞こえて、間髪入れずに風呂の引き戸がガラッと音を立てて開かれた。
「うおっ!?」
「悪りぃ!でもさくらちゃんが!」
「さくらが!?」
容赦なく入ってきた聡が、ぐったりとした仔狐姿のさくらを俺に手渡す。
「なんだ、どうしたんだ!?」
「とにかく一緒にお湯に入れてやれって」
「ええ!?大丈夫なのか?」
「うん、うーちゃんから頼まれた」
うーちゃん……ウメさんか、ならきっと大丈夫なんだろう。とりあえず腕に抱いてゆっくりとお湯に浸けてやる。酷く衰弱してるみたいに見えて、なんだか凄く可哀想だ。
「単なる霊力切れだよ、あんたの霊力をさくらに分けてやっとくれ」
「ウメさん」
いつの間にか聡の足元に、ウメさんがお座りしていた。
「ゆっくりゆっくり、霊力を流すんだ。ちゃんと霊力の流れを意識して流すんだよ」
霊力の流れって、俺、まだ全然分かってないんだけど。うわ、ていうか今までどうやって霊力って送ってたんだっけ。いつもは撫でたり名前呼ぶだけで霊力渡せてたからな……ヤバい、いざ考えてやろうとするとマジでどうしていいか分からない。
でも、弱りきっているさくらを見たら可哀相で、少しでも元気になって欲しくて気がつくとゆっくりと体を撫でていた。
「あっ……」
さくらを撫でる俺の手から、柔らかな淡い光がさくらに向かって流れてる。もしかして、霊力ってこれか?
そう言われれば手の平がなんかあったかい。この光とか、あったかい感じとかを追えば体の中を巡る霊力が分かるんだろうか。
そうは思ったものの、まずはさくらを癒すのが先だろう。手の平から出る光がいっぱいになるように念じていたら、いきなりウメさんから怒られた。
「ええい、ボンクラ!小手先だけで霊力捻り出そうとするんじゃないよ!」