ウメさんのスパルタ講座
「ああ、本当にもう、ガキの相手は疲れるねえ」
人間みたいに首をコキコキと鳴らしながら、ウメさんがため息をつく。もう猫っぽく振る舞う気もないのか小さな脚でとてとてと二本足で歩いてくるのがとっても可愛い。
ちなみにウメさんがガキっていってるのはどうやら聡のことみたいで、あんなにちっちゃいウメさんが、あんなにでっかい聡の事をまるで弟みたいに扱ってるのがなんだかとっても面白かった。
初めて霊力が発現した事に大喜びの大騒ぎだった聡にちっちゃな壺を手渡して「中に何がはいってんのか分かったら、わっちに声をかけるんだよ」と言い残したウメさんは、やっとあたしの方にしっかり顔を向けてくれたの。
「さくらって言ったかねえ」
「はいっ」
近くで見るウメさんは、ちっちゃいのになんだかとっても貫禄があった。強いのかなあ、あの黒いヤツなんかとは比べものにならないくらい大きな大きな存在に見えて、なんだかすっごく、ドキドキする。
「あんた、戦ったことは?」
「えっと、黒いのをやっつけたの」
「黒いの」
「雅人おにーさんのお部屋にいた、黒い悪いヤツなの。雅人おにーさんの生気?霊気?わかんないけど、なんか狙ってたの」
「なるほど、そいつを倒したってことは一応の実践経験はあるんだね、子狐のくせにやるじゃないか」
「ま、雅人おにーさんから、なんかブワってすごい力が流れてきてね、それで噛み付いたから」
雅人おにーさんまでウメさんに手がかかる弟みたいに思われちゃうのはなんだか嫌で、あたしは雅人おにーさんがスゴイんだと思うの!って一生懸命アピールした。
ウメさんは「ふうん」と耳裏からお顔までを前脚で丁寧に二、三回こすって「一応回路は出来てるみたいだねえ」と呟いた。
カイロ……カイロ、出来てるって百合香おばあちゃん言ってた!
えっと、えっと、そう!
「カンヌシさんが、つないでくれたって」
雅人おにーさんも言ってたもん。
「そうかい、じゃあ話は早い。今頃、百合香があんたの雅人おにーさんを鍛えてる筈さ。回路があるなら集中と霊力の循環をまずは教えるだろうから、あんたはまずは実戦だ」
よく分からないけど、あたしはとにかくコクコクと一生懸命頷いた。
「まずはあんたの攻撃手段がどれくらいあるのかが見たいねぇ。何をしたっていいからさぁ、わっちに傷を負わせてごらん」
え、初めて会った、しかもこれから色々教えてもらう先生に、牙を向けるの?
一瞬ポカンとなったあたしに、ウメさんはにんまりと笑いかける。
「安心おし、あんたごときに深手を負わされるほどなまっちゃいないよ。それとも何かい?あんたの雅人おにーさんがいなきゃ、牙のひとつも立てられな言うのかい?」
「違う!あたしが、雅人おにーさんを守るんだもん!」
「そんならさっさとかかっておいで。ママから狩が仕方くらい、習ったんだろ?」
習って……ない。習う前に、死んじゃったんだもん。
でも、なんだか悔しくって、あたしはがむしゃらにウメさんに飛びかかっていった。