回避策の検討
あたしにはよく意味が分かんなかったけど、多分聡がバカなこと言ったんだと思うの。呆れたみたいに聡の顔をじっと見たあと、雅人おにーさんの肩ががっくりと落ちた。
「ちょ、何その残念そうな目!軽く傷つくんだけど」
「いや、まあ、なんつうか……ところで神主さん」
「流された!」
「いや、マジで大事な話だから。神主さん、今の話だと真面目な話結構危ない感じなんですか?」
「そうですね、割と。霊気というものは例えると……そうですね、電気みたいなものなんです」
「電気?」
「そう、チャージしても放っておくと減ってきちゃうから、定期的に充電が必要です」
「はあ……」
なんだか難しくってあたしにはよく分かんない。雅人おにーさんも分かんないのか、微妙な顔であいまいに頷いていた。
「さくらちゃんみたいに充電してくれる人が傍にいたり、死を悼んで供養してもらったり、土地の力が強くてふんだんに霊気を取り込める場合は問題ないんですが、普通は日に日に霊気が薄まって存在があやふやになっていきます」
あ、うんうん、この前言ってた消えちゃうってことでしょう?
「強い思いがあって消えたくない霊達は少々のリスクがあっても襲ってきますからね、雅人くんくらいの半端な霊力だとかなり標的としてもってこいなんですよね」
な、なんですって……⁉
酷い!あの黒いヤツを倒せってあんたと白龍が言ったんじゃないの!それなのにいざ倒してみたら霊力があがってもっと危険になっちゃうなんて、そんなの酷い!
酷すぎるよ……!
「わっ! さくら⁉」
あんまり頭にきてカンヌシさんに吠えかかったら、白龍にデコピンされて、盛大に後ろにふっとばされてしまった。うう……めっちゃ痛い。
「白龍さま、それくらいにしてやってください。さくらちゃん、それでね、いい案があるんだよ」
「えっ⁉ 白龍さま⁉ 白龍さま、そこに居んの? スゲえ! めっちゃ見たい!」
「……百年早いそうですよ。見たかったら聡くんのお婆ちゃんくらい霊力上げないと無理でしょうね」
「え、婆ちゃん?」
「ええ、百合香さんです。その件はお家に帰ってから百合香さんに聞いてください。まずは雅人くんとさくらちゃんをなんとかしないとね」
そーよ!聡のばか! 聡のばーちゃんの事なんて今はどうでもいいんだってば!
「それで、今の状況に対する対処方法なんですが、2つあります」
「教えてください」
雅人おにーさんもすっごく真剣な顔。おにーさんを守れるなら、あたしなんだってすっごく頑張れるよ!なんだってどーんと来いなんだから。
「では……まず1つ目、雅人くんのあがった分の霊力をさくらちゃんに移植する方法です。これなら雅人くんの霊力は下がりますから、雅人くん自体が狙われる可能性は激減します」
「え、じゃあ、さくらは?」
「一時的に狙われやすくなるでしょうが……あなたからの霊力供給が少ないわけですから、徐々にさくらちゃんの霊力もさがって、絡まれもしないレベルになるでしょう。雅人くんがこの先平和に生きていくならこれが一番です」
雅人おにーさんが危険な目にあわないなら、あたしがちょっと危なくなるのなんて平気だよ?それに雅人おにーさんの霊力を貰えるなら、あたしその時は強くなるんでしょ?なにが来たって返り討ちにしてやるんだから。
そう思ったのに。
「この場合、さくらちゃんはうちの神社で引き取る方がいいでしょうね。霊力供給が少ないと霊はひもじいものですし、下手を打てば存在が消滅してしまいます。でも一緒にいる以上は霊力が高いとさくらちゃんの霊力を悪鬼が狙って来た時に問答無用で巻き込まれますから」
え? どういうこと?
あたし、雅人おにーさんと一緒に居れないの?
「さくらちゃんは充分に恩返ししたでしょう? これからは雅人くんの傍にいる方が彼を危険にしてしまう。うちにおいで、時々雅人くんにお参りにきて貰えば寂しくないでしょう?」
そんな……!
消えちゃうのも、お腹すくのも嫌だけど、雅人おにーさんの傍に居れないなんて……そんなの、嫌だよぅ……。
でも、傍に居る方が雅人おにーさんが怖い目に合うかも知れないなんて。すっかり悲しくなってしまって、あたしは地面にちんまりと身を伏せた。




