これはヤバイ。
ヤバイ……ヤバイ……ヤバイ……!
既に朦朧としてきた頭に浮かぶのは、そんな言葉ばっかりで。
最初は余裕だったんだ。
さくらが来る前は金縛りなんかしょっちゅうで、魘されて目が覚めるのなんか毎日の事だった。だから、最初は襲ってきた重苦しい気配だって「あ、なんか久しぶり」って思ったくらいだったんだよ。マジで余裕ぶっこいてたよ。
なのに、冷たい感触があったと思ったら、いきなり体中からよく分からない何かがギュンギュン抜かれていくような、恐ろしい感覚が俺を襲った。
例えるならそれはそう……蜘蛛。
蜘蛛の巣にかかった昆虫が、体液を吸い尽くされて干からびていく様を見る度、生きたまま体液を吸われるという恐ろしいシチュエーションに恐怖したもんだ。今でも蜘蛛を見かけたら、問答無用でダッシュで逃げるくらいには嫌いだ。
今まさに、俺はその感覚を体感していた。
いや、イメージだけど。
とにかく、どんどん力が抜けていくもんだから、もはや起き上がる事もできない。ごめんな、さくら。おおげさだなんて思って笑ったけど、さくらの心配した通りだったな……。
考えすら纏まらないまま、さくらに詫びる。
そこでふと、嫌な考えが頭を過った。
さくら……!
さくらは?
俺にこの魔の手が伸びたって事は……!
悪霊とやらにもしも負けたら、さくらはいったいどうなってしまうんだろう。霊体でしかないさくらは、その姿を保っていられるんだろうか。
最悪の事態が頭に浮かび、俺は激しく恐怖した。
あんな小さな体で俺を守ろうと必死だったさくら。本当は俺が守らなきゃいけなかったんだ。
「さ……くら……!」
なけなしの力を振り絞って、俺がつけた名前を呼ぶ。神主さんが言ってたんだ、名前を呼ぶだけで、ナデナデしてあげるだけで、僅かに俺の霊力とやらをさくらに分けてあげられるって。
「さくら……!」
喉からやっとの事で声が出た瞬間、目の前に金色が踊った。
「ギャウッ」
小さな叫びを上げて、俺の腕に纏わりついていた冷たい感触が離れていく。冷や汗が滝のように流れ出るが最早そんな事気にしていられる余裕なんてなかった。
さくら……さくらは無事なのか?
少しだけ自由になった体を無理矢理に起こす。
目の前を、また金色が覆った。波うつように動く金色があんまり綺麗で目を細め……ああ、この金色はさくらのフサフサしっぽなんだと気がついた。
よかった……!
無事だったんだな、さくら……!
全身の毛をこれでもかとばかりに逆立てて、俺の体からやっと引き剥がされた冷たい悪霊の手に一心不乱に噛みついている姿でさえ愛おしい。
万感の思いを込めて、俺はその小さな体を後ろからやんわりと包み込む。なけなしの俺の霊力が、少しでも多くさくらに渡せればいい。
「さくら……」




