雅人おにーさんはあたしが守る!
雅人おにーさんは「大丈夫だよ」って笑うけど、白龍が言ったこと、あたし、なんだか分かる気がしたの。
だってあの黒い嫌なヤツ、ちっとも諦めてなかった。
毎日あたしに負けて、すごすごと部屋の隅に戻ってはいくけど、隙があればすぐに雅人おにーさんに触ろうとしてくるんだもん。最初は夜、雅人おにーさんが寝てからしか動きださなかったのが、この頃じゃ部屋に入った瞬間から狙ってきてるの。
だからあたし、この頃は雅人おにーさんよりも先に部屋の中に入るようにした。雅人おにーさんにじゃれて楽しくなっちゃって、守りが手薄になった時を狙われたから、あたし、あれからは夢中にならないように気をつけてるの。
この前なんか、雅人おにーさんがお風呂に入ってる時、お風呂場の前で睨みをきかせてたら、あたしをチラッと見たあとで壁を抜けてっちゃったんだよ?
あたし、大慌てでお風呂場に乱入した。
「お?さくらも入るかー?」
なんて、呑気にしてる場合じゃないんだよ、雅人おにーさん!
雅人おにーさんはアイツの事見えないから、気付いてないでしょう?
アイツの目、日に日にギラついてきてるの。
真っ黒な中に目だけが爛々と光って、まるでママが言ってた、クマっていう怖いヤツみたいなの。
白龍は、雅人おにーさんの生気を吸えなくなって、アイツがイライラしてきてるって言ってた。それはあたしも感じてるの。だんだんなりふり構わずに襲ってくるようになったって。あたしの力が日に日に増してきてるのは、きっとアイツだって感じてる。
あたしがアイツなら、力の差が決定的になる前に。
まだ何かの拍子で勝てるかも知れない今のうちに、絶対に勝負に出ると思うの。
思った通り、アイツは帰ってくるなりものすごい殺気を放ってきた。あたしがまだ目も開かない頃、あたしとママの巣に何かが襲ってきた事があったけど、その時に感じた殺気みたい。
あの時は危ないところで狩からママが帰ってきたから、あたしは生きていられたけど……今度は、あたしが闘うしかない。
思いっきり威嚇して、こっちからも全力で殺気を放つ。
雅人おにーさんはあたしが守る!
そして真夜中。
圧し殺したような、呻き声にハッとした。
振り返ると、雅人おにーさんが額に大粒の汗を浮かべながら魘されている。顔も青白くって……こんなの普通じゃない!
どうして⁉
アイツ、あたしの目の前にいるのに。
でも。
様子がおかしい。
満足そうに目を細めてる。
ちょっとずつ、アイツの力が増すのを感じる。
焦って飛びかかりたい気持ちを抑えて、アイツの気配をじっくりと辿れば、本体から細く細く伸ばした腕をアタシの目を盗んで雅人おにーさんまで伸ばしていたんだ。本体に気持ちが釘付けで、裏でそんな姑息な事してたなんて気付かなかった!
本体ももちろん始末するけど、みるみるうちに真っ青になっていく、雅人おにーさんの方をなんとかしなきゃ!
雅人おにーさんの体に伸びる細い細い腕に、あたしは無我夢中で飛びついた。