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プロローグ

お手にとって頂きありがとうございます。


基本的に書籍化した前作とは違い異世界での描写ばかりです。


【医療関係若しくは薬剤について詳しい方へ】

本作に登場する薬はわたくし個人が実際に処方して頂いているものです。

薬効は描写しますが特定可能な名称等の情報は出さないようにしています。

R15タグは入れてありますが青少年が入手したいと思われても困りますので、

感想欄などで名称等の特定可能な情報を書き込まないようにお願い致します。


「止めなさい! あの件はこの人の責任では無いでしょう。」


 俺が彼らにイジメられていると、どこからともなく救世主がやってくる。いつもこのパターンだ。


「そんなことは無い! コイツが兄貴に薬を渡さなければ、兄貴はヒーローで居続けることができたんだ!」


 この男の兄は、全国的に有名人だった。陸上の笹原と言えばわかって貰えると思う。日本での短距離走のトップを独走してきたからだ。


 世界陸上でも上位入賞を果たすなど、オリンピックでは表彰台を狙えると評判だった。


 日本でヒーロー、地元でも清廉潔癖なキャラクターだったが学校では、横暴な面もみせるなど本来は粗暴な人間だったのだ。


 名古屋市の熱田区にある梅室学園神宮西高等学校には、スポーツ推薦枠があり、赤点さえ取らなければ、十分な内申点がもらえる。そんな高校だった。


 俺はその高校の普通科の特進・進学・普通とある中の最低ランクの普通クラスで入学した。別に頭が悪かった訳ではない。過眠症という病気だったのだ。一般にナルコレプシーと呼ばれるもので、日中急に眠くなって意識を失ったり、興奮すると失神することもあるらしい。


 俺の症状は軽いもので、日中眠くなって瞬間的に意識が飛ぶ程度だったが、日中授業を受けている俺に取っては致命的だった。


 さらにカフェインが効きにくい体質であり、大量に摂取することで体調を崩したりもしたため、代替薬として過去に喘息の治療薬だった薬が処方されていたのだ。


 この薬は、大量に摂取することで習慣性がついてしまうという、結構危険な薬だったらしい。さらにスポーツ競技のドーピング検査で陽性反応を示してしまうらしい。


 俺は医者の処方通り、1日3回まで眠くなったときに飲むように言われたに従っていただけで、そんなことは全く知らなかったのだ。


 暴君だった彼の双子の兄は同級生で俺が居眠りばかりするせいなのか、彼のイジメの対象だったのだ。


 それがある時、赤点を取ってしまったのだろう。俺が眠気覚ましの薬を持っていると聞きつけ強引に奪っていったのだ。その薬がオリンピックのドーピング検査に引っかかり、彼は記者会見で友達に貰ったと嘘の告白をしたのである。


 名指しされたせいで俺の評判どころか家族の評判まで突き落とされてしまった。俺の親は地元で八百屋を営んでいたが経営が上手くいかなくなり、父親は実家がある三重県で工場従業員として働いている。


 俺は、というと家を追い出されかけたが、高校を卒業するまでという約束で高校の寮に入れてもらったのだ。その寮が名鉄神宮前駅の反対側にあるのでそこへ向かう道だ。


 本当は回り道をしてもいいのだがこの駅は名鉄本線の基地になっているため、尋常では無く遠回りになるし、俺がここを通らないだけで翌日の嫌がらせの度合いが何倍にも膨れ上がるから、素直にこの道を選択しているだけである。


 だが、そこに現れた救世主が梅室美幸である。彼女はこの学校の理事長の娘で正義感の強い女性だ。偶々俺の薬を奪っていった瞬間をみていたらしい。


 その事が理事長経由で伝わると一躍ヒーローが悪役に転落してしまい。学校も退学処分にしたのだ。


 それ以来、弟であるこの男は、地下鉄桜通り線の瑞穂区役所近くの瑞良高校に通っているらしいのだが、徒歩で30分以上かけて、名鉄神宮前駅まで嫌がらせをしに来るのだ。


 彼も今、大変だと聞くのに・・・。半ばヤケなのかもしれない。兄と同じ大学に独力で高校の推薦枠を勝ち取り、内定していたのに兄と同時に取り消されてしまったというのだ。


 まあ、大学側もスキャンダルをおこしたスポーツ選手と同じ顔が構内をウロウロされるのはたまったものじゃないのだろう。


「そうよ! スポーツで有名な学校の生徒のくせに知らなかったなんて思えないわ! そのせいで、しゅうちゃんが苦労するなんて許せないわ!」


「でんぼ、僕はどうでもいいんだ。それよりも、兄貴が・・・。」


 この2人は幼馴染で、でんぼと呼ばれた女の子が金魚のふんみたいにくっついているのが標準仕様だ。


 名鉄神宮前駅のバスターミナルで聞き耳をたてていたであろう人たちの中に白けた空気がただよう。この辺の人間だったら、誰でも知っていることだが、この男はそんな愁傷な考えの持ち主では無い。


 中学・高校と、兄貴の名声を利用して幾多の女の子を騙してきたか・・・。それに大学の推薦枠を手にする際にしても、利用できるだけ利用しているのだ。いまさら、一蓮托生で取り消されても仕方が無い面もあるだろうに・・・。


 俺に八つ当たりしてもどうしようも無いくらいのことが判らないのだろうか。


「君たち、その辺で止めなさい!」


 また、1人の男がこの場に飛び込んでくる。うちの副担任の梅室清光先生だ。


 この先生には感謝している。親にも見捨てられた俺を真っ先に庇ってくれたからだ。たとえそれが従姉の美幸さまの言動を先取りしたものであったとしても・・・。


 初めは楽観していたのだ。薬のことは、医者に説明してもらえばいいくらいに考えていたのだが、地元の医者だったからか、だんまりを決め込まれてしまったのだ。


 地元では、オリンピック出場で随分と恩恵を受けていたらしい。うちの八百屋もそうだが、連日彼の練習風景を見にくる客が落としていくお金で潤っていたらしい。


 昔は門前町で賑わっていた地元も、名鉄神宮前から見て熱田神宮のさらに西よりにあるので必然的に過疎化が進んでいたのだ。しかも近隣に大きなショッピングモールができると地元民も素通りされてしまう。


 キャラクター商品まで企画していたらしい。それが全ておじゃんでは泣くに泣けない。真相が判明したいまでも風当たりは強いのだ。


 教師が出てきて、スゴスゴと引き下がり、それで終わる筈だった。















 突然、視界が歪んだと思ったら、宙返りコースターで一回転したような、気持ち悪さが襲ってきた。


 しばらく、休憩したらどうやら立ち上がることができるようになった。


 ーーまるで雲の中に居るようだ。


 少しずつ視界が慣れてくると、周囲には清光先生も美幸さまも居たのでホッとする。双子の片割れである笹原収二とでんぼと呼ばれていた牧戸真紀が居た。


 そして、目の前にひとりの女性が居た。


「これは何のイタズラだ!」


 清光先生が教師の使命感なのか、美幸さまの前で良い恰好がしたいのか、目の前の女性に詰め寄る。先生にはあの神々しいオーラがわからないのか?


 きっと、全てにおいて美幸さまが優先されるのかもしれない。


「私は、この地区を担当する神です。貴方たちは、異世界から召喚されました。」


 神の言葉にショックを受けたためか俺もそうだが皆、黙りこんでしまう。


「私たちは、どうなるのでしょう?」


 いち早く復活したのは、美幸さまであった。さすがだ。


「貴方たちを元の世界に戻してあげることはできません。」


「何故だ!」


 次に復活した清光先生が強い調子で問いただす。


「こんな話聞いたことあるぜ! 異世界の魔法には、干渉できないとかでチート能力をくれるんだろ。やったぜ! 兄貴の居ない世界で俺はビッグになってやるぜ!」


 次に収二がそんなことを言い出す。この男、ラノベでも読んでいるのか? 中学生の頃、俺が教室でラノベを読んでいたら、散々バカにしてくれたくせに・・・。


「その通りです。この場の干渉はこちらの世界だから出来る一時的なもので、異世界の魔法を当事者でない私が勝手に解呪することはできません。」


 しかし、異世界か。不味いな。どんなチート能力をもらってもナルコレプシーが治らない限り、不幸な未来が待っているとしか思えない。収二のように安易に喜べない。突然、意識を失って身ぐるみはがされるのがマシなほうで最悪、命を取られかねないに違いない。


 そうやってイロイロ悩んでいるうちに、俺の番になった。


 『翻訳』『鑑定』『状態』『箱』スキルといった基本的なスキルの他に1つユニークスキルを選択できるらしい。


 美幸さまは『治癒』スキル、収二は『腕力』スキル、それを見ていた清光先生は『防御』スキル、牧戸さんは『魔法障壁』スキルを選択したようだ。


「貴方はどんな能力が欲しいですか?」


「俺はいらないです。その代わり、俺の病気を治してください。」


「コイツ、断りやがった! さすがは、底辺高のガイジだ。変人度が違う。」


「収二さん! それは差別用語です! 撤回してください。」


 美幸さまの待ったが掛かる。ガイジとは障害者を指す言葉なのだが、中高生の間では、頭のオカシイ奴という意味で使われているのだ。


「ハイハイ。じゃあ、底辺高のデンパで。」


「それも人をバカにした言葉でしょ!」


「なんでもいいじゃんかよ。」


 頭がオカシイ奴呼ばわりされるのは訳がある。中学の修学旅行帰りに立ち寄った。名古屋駅の有名な自動車メーカーのビルの地下でキンキンという音が俺にだけきこえてきたのだ。


 酷く頭に響く音で、その場で耳を塞いでうずくまってしまった俺は、その時からデンパ呼ばわりされているのである。一般にモスキート音と呼ばれる、若者たちにだけ聞こえる音でも無いらしい。


 おそらくだが、飲食店が立ち並ぶ地下街との境界だったからネズミ除けとして発信されている音なのではないかと思っている。明らかに一定のリズムだったので自然界の音ではないことは確かだ。


「それは出来ません。私たちに出来ることと言えば、異世界で困らないように能力を与えるだけです。」


 俺はがっくりと肩を落とす。


「じゃあ、コイツの分も俺にくれよ。能力を与えることなら出来るんだろ。お前もそれでいいだろ。それで兄貴の件はチャラにしてやろうじゃないか。」


 能力を奪うために勝手なことを言っている。でも、チート能力があっても直ぐに死んでしまうようじゃ勿体無いな。


 そうだ! 清光先生にあげよう。そうすれば、収二からも、異世界の人たちからも我が救世主の美幸さまを守ってくれるに違いない。


 だが、そんな俺の決心も次なる神さまの言葉に打ち壊されることになった。


「一度に複数の能力を付与した場合、貴方の命の保証は出来ません。それでもよろしいですか?」


「そんなぁ・・・・・・。ああ、わかったよ。ひとつで我慢することにするさ。おらおら、お前! さっさと選びな!」


 収二は余程がっかりしたのか、いきなりガラが悪くなった。


「それでは、この薬をあるだけ下さい。」


 俺はそう言って、医者に処方してもらっている薬を神さまに渡す。これも断られるだろうな。いくら神さまでもこんな薬を持っているとは思えない。


「それでも断るか! 空気を読めない野郎だな。お前が能力を使い切れるとは思ってないが戦力ダウンなんだ。少しぐらいこちらのことを考えろよ。」


 こっちも生きるか死ぬかの瀬戸際なんだ!


 分かれよ!!


「これですか・・・。『箱』の中を見てください。その薬の名前が出てきていると思います。」


 俺が神の言った通りにすると、薬の名前が出てきて、その隣が無限大となっていた。


「但し、この薬は世界を超えて持ち込むことが出来ないものですので、取り出せません。」


 確かに習慣性のある薬なんか持ち込まれたら、大変なことになるのは目に見えている。


「取り出せなきゃどうするんだよー!」


 俺は神にバカにされているのか?


「その薬を思い浮かべて、『飲む』と思うだけで口の中に出てきます。ついでに薬物耐性の能力を付与しておきましたので、1日の制限回数も外れています。」


 『飲む』


 本当だ。あの特有の苦い味が口の中に広がったと思ったら少量の水も口の中に出てきて飲み込むのをサポートしてくれる。しばらく、経過すると頭が冴え渡ってくる。効き目は間違いないようだ。


 『飲む』


 さらにもう一錠飲み込んでみる。どれだけ経過しても、心臓がドキドキしたり、口が渇いたりする副作用が現れないようだ。


「やっぱり、役立たずだな。まあ、底辺高のデンパ野郎だもんな。」

 

「面白そう」と思って貰えたら、是非ブックマークをお願いします。


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