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古代魔術師の家

「ここが古代魔術の遣い手、ヤーブロー師の屋敷よ」


シャトレーゼが指さした。


商業区の外れにある小さな一軒家は、大量の蔦に覆われて原型が見えないほどだ。辺りには民家が無く、寂しい場所にぽつりと存在していた。


シャトレーゼの家もそうだが、魔術を扱う者は皆、人気のない場所を好むらしい。


「案内ありがとう、シャトレーゼ。それにしてもどでかい日傘だな」


俺はシャトレーゼのさしている、まるでレースクイーンが持っているような巨大なパラソルに目をやった。


「あら、仕方がないじゃない。私たちは日光に弱いのよ」


そう言うと、死者の(リッチ)であるシャトレーゼはニッコリ微笑んだ。

確かに、こいら不死者(アンデッド)は日に当たり過ぎるとマズいのだ。


「鍵がかかってるぞ。ヤーブロー師はお留守のようだな……」


入口の扉に手をかけたバハラティがそう言った。


だが。


「ねぇ、ソータロー。何か変じゃない?」


ビスコが腕を組んで何やら考えながら言った。


「何て言うか、うちの叔父さんがパチンコにハマって消費者金融に追われた挙句、うちの母さんからの借金も踏み倒して群馬に逃げた時と同じ臭いがするわ」


「どういう意味だ?例えがニッチ過ぎて意味がわからん。あと、パチンカスには何があっても金は貸さないことだな」


「何て言うか、誰かが息を潜めて家の中に隠れてる気配がするのよ。ちょっとさ、電気のメーター見てみなよ。こういう時、家の中に誰かいればメーター回ってるからさ」


「ヴィシュラ王国に電気があるか、馬鹿」


俺はそう言って鼻で笑った。

「この国は魔法が発達したせいで、科学技術は十六世紀レベルだ」


「本当だ、メーターが回っているぞ!」

バハラティが声を上げた。


「えっ?どういうこと?」


シャトレーゼがずいと進み出て、扉の脇にあるメーターを見る。

魔力生成装置(ジェネレーター)が起動してるみたいですね。魔導メーターが動いてるわ」


「……それって、どういう状況なの?」


「誰だか知りませんが、魔装品か何かに魔力を充填しているようです。」


「じゃあ、ヤーブロー師は中にいるのかな?」

俺の問いに、誰も答えなかった。


だがしばらくして、シャトレーゼが呟く。


「それは、おかしいですね」


「どうしてだ、シャトレーゼ」


「ヤーブロー師は高齢ではありますが、王国でも指折りの高名な魔術師(ウィザード)です。何か大がかりな魔装品の生成や、魔力実験でも行わない限り、魔力生成装置(ジェネレーター)の助けを必要とはしないはず」


「だとすると……この家の中で魔力生成装置(ジェネレーター)を使っているのは、ヤーブロー師ではないってことか。だとすると……」


シャトレーゼが眉根を寄せる。そんな表情もセクシーだった。


「何者かが中に侵入し、魔力を盗んでいるってことです」





※※





「動くなぁ!」


扉を蹴破るなり、バハラティが叫んだ。シャトレーゼのハーブで体力を取り戻したおかげだろう、名探偵コナンに出てくる小五郎おじちゃんばりに元気がいい。


「てめえが中に隠れてるこたぁ分かってるんだ!出てこい!出てきやがれ!」


喚きながら短剣を振り回すバハラティの後ろから、シャトレーゼもずんずんと家の中に踏み込んでいく。その後にはラバースーツ姿のビスコが続こうとして……。


俺の方を振り返った。


「ソータロー、何してるの?」


「物陰からお前たちの活躍を見守ってるんだ」


俺は家の前に生えた大きな樹の後ろにピタッと張り付いていた。太陽にほえろに出てくる七曲署の刑事ばりに、この場所から離れず一部始終を見守るつもりだった。


「いいから、ソータローも来なよ」


「無理だ。俺は非戦闘スキルしか持たない文民(シビリアン)だ。戦闘地域になりそうな場所には断固として足を踏み入れない」


「相変わらず、面倒くさい言葉で言い訳して逃げんだね」


ビスコはそう言うと、肩をすくめて家の中へと入っていった。


俺はその言葉に、釈然としない思いを抱いていた。


ビスコがチートな邪神である俺様に向かって、“逃げる”などという侮辱の言葉を吐いたことが許せないわけではない。


何か胸の中で、捕えどころのないざわつきが暴れていた。


と、その時。


「ぎゃあああ!」


家の中から叫び声とともに、バハラティが飛び出してきた。


「どうした!バハラティ」


「バラバラ死体が転がってる!」


「えっ?」


そんなアホな。せいぜいチンケな魔力泥棒が潜んでいるくらいだろうと思っていたのに、そんなシリアスな展開になるとは思いもしなかった。


「マジか……で、どんなだ」


「どんなって、何がだよ?」


「だから、バラバラ具合だよ。どれくらいバラバラなんだ?映倫に引っかかるくらいの残虐映像なのか?」


「自分で見て来いよ」


「嫌だよ気持ち悪い。俺そういう怖いの見ると、夜トイレに行けなくなるんだ」


「いやもう、それぐらいのレベルだよ。大人じゃない、女の子の死体だ。しかも銀髪で、目が赤いんだよ」


「マジかようわああ恐ろしい…………って、あれ?」


俺は首を傾げた。


「今、銀髪で赤い目って言ったか?バハラティ。しかも大人じゃない女の子だって」


「そうだよ」


「何か、覚えがあるような」


そこまで言った俺とバハラティは、ハッと顔を見合わせた。


「モ、モナカ!」






※※






ヤーブロー師の家に踏み込んだ俺たちは、衝撃的な光景を目の当たりにすることとなった。


モナカの首が、天井から鎖につながれてぶら下がっている。その下の丸テーブルに胴体が置かれていて、幾本ものチューブが差し込まれていた。

手と足はテーブルの下に乱雑に置かれている。


「うわあぁ……これは酷い」


俺はボソリとつぶやくように言った。

「完全にバラバラじゃないか。猟奇殺人だ、犯人はまともな神経じゃないな。江戸川乱歩の読みすぎだよ」


傍らに立ったバハラティが、ぎゅっと俺の肩を掴んだ。腹の底から搾り出すような声で言う。

「何のために、こんな惨いことを……」


「考えられるのは性的倒錯だな。成人しない女児の肉体をバラバラにするという猟奇的行為に、興奮する異常な性癖の持ち主。あるいは、見立て殺人」


「見立て殺人?」


「何らかの伝承をなぞったり、かつて起きた出来事を再現するような殺人のことだ。個人的復讐や過去の恩讐に起因する場合が多い。どっちにせよ、まともな神経じゃないな。何て言うか、頭のネジが何本か抜けている……」


「頭のネジが抜けている?それはマズいですぞ。動作不良を起こすかも」


「いや、頭のネジが抜けているというのは比喩で……」


そこまで言った俺は、その声の主が誰か気付いて仰天した。


「モナカ!」


喋っていたのは、天井から吊るされたモナカの生首だ。


「……では、ネジは抜けていないのですな?」


モナカは言った。


ネジは抜けていなかったが、バハラティが腰を抜かしていた。





つづく

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