【1.思い出】
応募様に続きを書く事にしました。
今後、少しずつ投稿する予定です。
前回と同じ、過去の話が出てくるお話になります。
Right in the DarkⅡ
人が大切にしているモノというのは、「物」でもあるし「者」でもあると思う。それでも思い出という「想い」があるからこそ、大切だと感じる事ができるのかもしれない。
【1.思い出】
【1】
「お帰りなさいませ、お嬢様」
執事喫茶「ブルー・ムーン」でお嬢様を、新山ルカは出迎えた。
赤髪に染めていてショートカット、程良く鍛えた体つきの彼女を、俺は香月事務所で見かけた事がある。確か、名前は有紀さんと言っていたような気がする。
彼女は、来店すると誰かを探すかのように店内を見る。しかし、探している相手が見つからなかったせいか、がっかりしたようにため息をついている。
「愁なら、まだ来店されていませんよ? いつもなら、もう少し後に来ます」
「・・・べ、別に、彼を探しにきたわけじゃないわ」
失礼ですが、その言い方に動揺している表情は、肯定しているようにしか見えませんし、聞こえませんよ?
と心の中で言いながら、意地の悪い笑みを俺は浮かべている。
「左様でございますか」
「・・・何よ、その笑みは」
「意味はありません。・・・こちらにどうぞ」
いつも彼が座る席の近くが空いていたので、その席を案内した。
「あの件については、協力ありがとう」
「いいえ、こちらこそ、何もできなかったようで」
俺は苦笑を浮かべる。
あの時、俺は協力と呼べるものは何もできなかった。
「そのアクセ、大切なのね」
「えぇ、大切です」
胸元を指さしている彼女に、そう答えた。さすがに、この仕事中にアクセサリーをつけるわけにはいかないので、ネクタイピンを彼女はプレゼントしてくれたものだ。
「・・・・・・いいわね。今後もバイトしてくれるみたいで、ありがとう」
「時々ですけど、それでもよければ」
香月事務所のバイトは短期だったはずだが、今後もバイトしてほしいとお願いをされしまい、時々でいいのならと了承した。
「人手が足りないから、助かる」
お店のドアが開く音がして、視線を向けると夏美に出迎えられた愁が来店したところだった。夏美はいつもの席に案内する。
「有紀が来ているなんて、珍しいな」
「愁が自慢してくる珈琲の味を飲みたくなっただけ」
「そうか・・・ルカ悪いけど、今度の休みにうちの事務所に出勤できるか?」
「えぇ、出勤できますよ?」
「今度、依頼人が来る事になってな。その間事務所に居てほしくて」
「・・・分かりました」
「ありがとう、助かった」
「ちなみに、どんな依頼ですか?」
「あるモノを探して欲しいという依頼だ」
【2】
平日の昼間の香月事務所は、日の光が射し込み明るい雰囲気がする。依頼人は、お昼頃に来る事になっていたので飲み物関係のところをいろいろと見ていると、不審そうな視線に気づいて振り向くと陸が立っていた。
「何見ているの?」
「喫茶店で働いていると、どんな飲み物があるのか気になるんだ。だから、つい見てしまう」
「・・・そういうもの? 僕にとっては、ここは家みたいなものだから、特に気にならないよ」
マイコップに陸は自分の飲み物をいれる準備をしていた。今日は紅茶が飲みたい気分だったようだ。お茶缶から茶葉をはかってサーバーにいれ、お湯をいれた。
「陸さんは、ここの仕事以外どうしてるんですか?」
「んー・・・玲奈のところに行ったり、美咲のところに行ったりしているよ?でも、自分の家がないから」
「美咲のところ?」
「うん、話してなかったけ? 美咲は僕と同級生で友達だったから、時々遊びに行くようになった。雫とは、直接話しているかな」
ニヤリと意地の悪い表情を陸は浮かべた。
「時々遊びに行っていたから、いろいろ知っているんだ。君、実は美咲の事かなり好きになっていたでしょ? でも、途中でブレーキをかけた。自覚もしていないふりして、そのまま、誤魔化している。その理由は、夏美の事を選んでいる自分に気がついていたから。違う?」
「・・・・・・心読みました?」
「僕にはその能力はないよ。ただ、君には僕と同じ気配がしたから」
「・・・同じ気配?」
「恋愛のパターンが似てそうな気がする」
含みのある言い方に、苦笑を浮かべる。それは、俺もなんとなく感じていた事かもしれない。
「ま、有紀の場合は、片思いでも違うけど」
「有紀さんの恋話・・・聞いた事ないですね」
ドアの開く音がして振り向くと、ちょうど有紀さんが入ってきたところだった。二人に見られて有紀さんは困った表情を浮かべている。
「ん? 何・・・?」
「有紀、この事務所で働いているのって、愁の事が好きだからだよね?それも結構前からの片思い」
「ちょっと、何いきなり話しているの! 陸に話した事ないでしょ」
「うん、話されてないけど・・・嬉しそうに愁が僕に有紀について話してくれた事があったから。頼りになる友人が居て、心強いって。いつも感謝しているって言ってたよ?」
「・・・・・・」
有紀さんはどう反応したらいいのか分からない表情を浮かべている。嬉しいような素直に喜べないような、そんな表情だった。
事務所の自分の席につくと、荷物を置いて浅くため息をつく。愁は用事があり、まだ来ていないのを席を見て確認すると俺に視線を向けてくる。
「珈琲淹れてもらえる?」
黙って頷くと、そのまま珈琲を淹れる作業を始めた。少し濃いめの方が、今は美味しく感じるかもしれないと感じて、濃いめに淹れるように作業をする。
「今回の依頼人ね、真由香なのよ」
そう言って、彼女は過去の話を始めた。
【3】
彼との出会いは、桜の舞う季節だった。
最寄り駅から徒歩で十分くらいのところにあるマンション。某市にココは空気がきれいで緑も多く、都会ほど店もない。そのマンションの一室のリビングから、一オクターブぐらい低く怒りを押し殺した少女の声が、 深夜の冷たい空気を伝わっていった。
「…真由香、あんたねぇ」
栗色の髪を長く伸ばして、上のほうでまとめている、薄茶色の澄んだ瞳の長身でスラッとした 体つきの中村 有紀は、頬をひくひくとひきつらせた。
親友の真由香から連絡があったのが数分前、泊まりに行ってもいい?との事だった。いつもの事なので了承したら、おまけがいた。
「状況を認識している…?」
有紀は深いため息を吐き、怒鳴りだしたいのを懸命にこらえて諭すような口調で話し始めた。
「……アイツもココに泊まるって事なんだよ?」
「うん」
「私は一人暮らししてるから、この家には真由とあの少年の三人だけってことになるのよね?」
「だから…?」
彼は、近くに置いてある雑誌を適当に見て、パラッとめくった瞬間にパタと閉じる。 「つまり、なんだろう?…ねぇ、愁分かる??」
「…なんだろうな」
私は真由香のその様子を見て深いため息を吐く。
これが、愁との出会いだった。
【4】
T県某市にある県立神山中学校の二年Z組の教室で、いつもとおりの月曜日の朝。
いつもと違うのはH・Rの時間に、クラスに違和感もなく彼が担任転校生として紹介されている事だ。
話は数日前にさかのぼる。
『ねぇ、愁。学校行きたい…?』
『まぁ、行ってみたいかな。できる事なら…』
なんでそういわれて、驚いて軽く目を見開いた。
一日中彼女をからかっていらわれるし、傍にいれるからなんて単純な動機ですけどね。
『だって、有紀♪』
キラキラと眼を輝かせて彼女を見上げる。
『ハア…仕方ないなぁ』
しばらく彼女の視線にたえた後に、机の上に置きっぱなしのスケルトンタイプの青い パソコンを起動させてキーボ-ドを打ち始める。いろいろと何か作業をしているらしく、十数分後には俺を振り向いてきた。
『じゃ、これでデータとかその他もろもろ作成したから、一応行けるようにはしたけど、その髪は目立ちすぎるから、黒くそめないとね。ウチの学校なんだかんだ結構 うるさいから。それと・・・、コレも』
どこから取り出したのか、眼鏡を俺にかけさせる。
『たぶん、人気が出ると思うから、絶対はずさないでね』
寝不足のために眠気が襲ってきて、彼は欠伸をした。
長め前髪に手をつっこみ、かきあげる。かけている伊達メガネがうっとうしいらしい。
「それでは、席は空いてる…香月の隣だ」
担任は窓際の一番前の席を指差した。その先をたどるとその席の隣には見覚えのある女生徒が座っている。彼女は彼と視線があううと無邪気な笑みを浮かべて小さく手をふってきた。
「…真由香」
もともと静まり返っている教室で、女子は聞き逃していなかった。ザワザワと数人の仲のいいグループごとに小声で話始めると、私語があっというまに教室に広がった。
「ねぇ、今名前で呼んでたよね?」
「そうなんじゃないのぉ?」
「…もしかして、付き合っていたりして」
彼が真由香の隣の席に移動する時に、聞く気はなくてもそんな小声が聞こえてきた。あさくため息をはきながら、ドサっとカバンを机の上に置くと座る。 担任がまだ話しているのを見てから、自然に俺は真由香の横顔を見る。
「―――隣の席だね♪」
気が付いたのか真由香の方に振り向くと小声でそう言い、ニコっと明るくて無邪気な笑みを 浮かべていてクスっと思わず彼も笑っている。
「えぇー、なんでぇー…私ってそんなにからかうと面白いの?」
頬杖をついて俺の顔を見ながら、彼女はむっとした表情を浮かべた。
「あぁ、反応が素直でおもしろい。思わずからかいたくなる」
きょとんとした表情を浮かべている彼女を見て、こういうある意味素直な反応をするからからかいたくなるんだと思った。
ホーム・ルーム終了後。
日直が号令をかけた後、俺の周りに人垣ができた。 特に女子が多い。茶髪の人が一番先に俺に話しかけてきた。
「ねぇねぇ、香月君だっけ…真由香と付き合っているの?」
「…いや、まだ付き合ってない」
「…ふ~ん。本当?」
「あぁ」
「真由香のこと、好き?」
彼は視線を逸らした。顔が赤くなっていくのが自分でもわかった。
「…ノーコメントって事で、だめかな?」
「ううん、べっつに~?ダメじゃないけどね~」
そういうクラスの人も、他のクラスメイトたちもやけにニヤニヤした表情を浮かべている。 なんでか分からず、彼女を見ても彼女も首をかしげる。
そんな彼と真由香を見て、有紀は深いため息を吐いていた。
「愁、アンタ天然すぎ」
帰宅してから、彼にそう言った。
「俺、何か言った?」
「言っています。「まだつきあってない」って自分の気持ちを言ってるのと同じよ?女子はそういうのに敏感だから隠したいなら気をつけなきゃ」
「…もしかして、有紀は俺の気持ちに気づいてる?」
「アレで気づかなかったら、かなり鈍いわね。たぶん、真由香にはバレてないけど。あの子は鈍感だから」
彼はその場に座り込んで前髪に手をつっこんだ。 どんどん顔が赤くなってくる。
「可っ愛い、愁」
「全然嬉しくないですよ、そう言われても」
「…本当に好きなんだね、真由香のこと」
私は寂しそうな表情を浮かべて顔を俺から逸らした。
「無邪気って、残酷」
振り向かれ、私はいつもの笑顔を浮かべた。
「嬉しいくせに!…好きな人と一緒にいられて、嬉しくて。でも、相手とは違う「好き」だからつらくもなって、関係を壊したくもないから告白できないしって感じ?」
私が苦笑を浮かべた気配がする。
「…不器用だよな」
「うん」
【5】
寝起きの彼は、何かに気がついた。
「…ん?」
重い瞼をこじあければ、彼女の顔のアップが見えた。 まだ完全に眠りからぬけだせなかった俺は、ぼーっと彼女を見つめていた。
もそもそと動いてこちらに寄って来る。熟睡している彼女は、手を首の後ろに回してひきよせて頬にキスしてきた。そこで完全に眼が覚めて、彼はガバッとはね起きる。
「…」
隣を見ると、まだ彼女は眠りの中にいるらしい。 近くにあった枕を抱きしめる。
「…大好き」
「…どんな夢みてんだよ」
「好きな人の夢、じゃないの?」
有紀が眠そうな口調でそう答えた。
「あ、おはよう有紀」
「おはよう」
「毛布かけたの、有紀?」
黙って彼女は頷き、ふぁと大きな欠伸をした。
「…寝てないのか?」
「うん、やることがあったから」
そう言って彼女はパソコンの方に視線をむける。
机の上にあるパソコンは電源が付きっぱなしで、サイトの画面が映し出されていた。
「それに、まだ三時だし」
「終わった?」
眠いせいなのかフラフラした彼女は、立っておぼつかない足取りでドアまで歩くと、ドアノブに手を伸ばす。
「…明日から学校だし、今からでも寝るね、愁」
「おやすみ」
「…ん、おやすみ…」
ドアが完全に閉まってから、有紀は背をあずけた。 もう、仲の良い二人をみるのは限界かもしれない。
自分の中の黒い感情に気づいて嫌気がさす。 真由に黒い感情をむけそうになるのにも、彼に好きになってもらいたいと思う事も。
手の甲につめたい感触がおちる。滲む視界の中、手の甲に一滴の水滴が見えた。何滴も頬を伝って落ちてくる感触がする。
掠れた声で、無意識のうちに口に出していた。
「…眠れるわけないじゃない」
好きな彼がいて、自分の親友が一番居たい場所にいる。欲しい優しい彼の表情は彼女に向けられていて、彼の「好き」という気持ちは彼女に向いている。分かっているのに、そんな笑顔を向けられるから、期待してしまう私がいる。
「…いっその事、嫌いになれたらいいのに」
それでも嫌いにはなれない。この気持ちはどこにぶつければいい?
自室のベットに倒れこんで、布団の中にもぐりこむ。
意地でも寝ようとしたが、何も考えたくないのに、ぐるぐるとまわっていた。
【6】
ある日の放課後。
私は真由香に呼び出されて、まだ誰も居ない教室に居た。
「…あと、一年したら…」
別々の進路に進んでバラバラになっていって、もう今みたく毎日会うこともなくなる。 そう思うと寂しい。
「有紀!ゴメン遅れて」
「ううん。で、話って…?」
走ってきたせいなのか彼女は息をはずませている。なるべく明るく見えるような笑顔を浮かべたけど、彼女はどこか傷ついたかのような表情を浮かべる。
「……有紀、何か我慢してない?」
ズキンッと鈍く胸が痛む。
「限界って感じがするよ」
本当のことを言われた。
ただ、それだけなのに、痛い。
言いにくそうに真由香はきりだした。
「愁のこと…?」
泣きそうになる。
「愁が好き…?やっぱり。なら、なんで告白しないの?」
なんとか堪えていたものが、音をたてて崩壊する。 冷静に話せるように、息をかるく吸い込み暴れだしている感情を沈めた。
「何でも言い合える仲だから、かな。言って壊れてしまうのが怖い。報われる事はないの」
「でも! あきらめないで言ってみればいいじゃない!!最初から…」
「「あたってくだければいいじゃない?」言う前から砕けてるのに?」
ちゃんと笑うつもりだったのに、口のはしをあげただけの嘲笑になった。笑っているのに、泣いている…そんな感じの表情を浮かべていたのだろう。 真由香は驚いて目を軽く見開いた。
「彼には、好きな人がいる。たぶん、彼が彼女以外を好きになることはない」
「…彼、女?」
悪意はない。
それはずっと見てきて知っている。
でも、心の余裕のない今は、まったく分かっていない彼女がムカツク。
「分からない…?」
彼女は一瞬おびえて、体を震わせた。
「少しは考えたら!?アンタのそういう無神経なところがキライなの!!」
言い出したら、最後。 絶対彼女を傷つけている。 頭では分かっていても、口から出てくる言葉を自分でとめることは無理、だった。
「そう、アンタはいつだってそう…私は…!」
「…それ以上は言いすぎだ」
最後まで言う前に、私の口は後ろから男の手で覆われた。
振り向くと彼だった。
「言うな。本心以外は…」
「ゴメッ…言いすぎた…嫌いなわけじゃない…」
「…うん」
真由香は優しい笑みを浮かべて、ただ、私が言うことを聞いてくれた。
その場で、私は、子供みたいに大泣きした。
「…俺にとっても大切な人だからな」
照れてる表情を浮かべて、彼は顔を赤く染めている。とっても言いにくそうなのを見て、思わず私は笑った。
「うん、私も大好きだよ」
吐き出したおかげ、かもしれない。
「別についてないわよ」
本人に伝える前から片思い決定で、ライバルは親友だけど、 すっきりしている。いつの日か、心のトゲが雪のようにとけて、痛くなくなる日はくるのか?その答えはあれから数年経過した今でも、まだ、出ていない。




